第4号 平成18年11月2日(木曜日)

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平成十八年十一月二日(木曜日)

    午後二時開議

 出席委員

   委員長 中山 太郎君

   理事 愛知 和男君 理事 近藤 基彦君

   理事 福田 康夫君 理事 船田  元君

   理事 保岡 興治君 理事 枝野 幸男君

   理事 園田 康博君 理事 赤松 正雄君

      新井 悦二君    伊藤 公介君

      石破  茂君    小野寺五典君

      越智 隆雄君    大塚 高司君

      加藤 勝信君    清水清一朗君

      柴山 昌彦君    新藤 義孝君

      竹本 直一君    谷  公一君

      渡海紀三朗君    中谷  元君

      野田  毅君    葉梨 康弘君

      早川 忠孝君    林   潤君

      原田 義昭君    平田 耕一君

      深谷 隆司君    森山 眞弓君

      矢野 隆司君    安井潤一郎君

      逢坂 誠二君    岡本 充功君

      玄葉光一郎君    鈴木 克昌君

      田中眞紀子君    筒井 信隆君

      中川 正春君    長妻  昭君

      平岡 秀夫君    古川 元久君

      石井 啓一君    大口 善徳君

      福島  豊君    笠井  亮君

      阿部 知子君    糸川 正晃君

    …………………………………

   議員           加藤 勝信君

   議員           葉梨 康弘君

   議員           船田  元君

   議員           保岡 興治君

   議員           枝野 幸男君

   議員           小川 淳也君

   議員           鈴木 克昌君

   議員           園田 康博君

   議員           赤松 正雄君

   衆議院法制局第二部長   橘  幸信君

   衆議院憲法調査特別委員会及び憲法調査会事務局長  内田 正文君

    ―――――――――――――

委員の異動

十月三十日

 辞任         補欠選任

  遠藤 乙彦君     石井 啓一君

十一月二日

 辞任         補欠選任

  大村 秀章君     新藤 義孝君

  棚橋 泰文君     大塚 高司君

  中野 正志君     小野寺五典君

  藤井 勇治君     清水清一朗君

  二田 孝治君     竹本 直一君

  山崎  拓君     原田 義昭君

  辻元 清美君     阿部 知子君

同日

 辞任         補欠選任

  小野寺五典君     中野 正志君

  大塚 高司君     棚橋 泰文君

  清水清一朗君     藤井 勇治君

  新藤 義孝君     大村 秀章君

  竹本 直一君     二田 孝治君

  原田 義昭君     山崎  拓君

  阿部 知子君     辻元 清美君

    ―――――――――――――

十月二十七日

 日本国憲法の改正手続に関する法律案(第百六十四回国会衆法第三〇号)の提出者「保岡興治君外四名」は「保岡興治君外五名」に訂正された。

    ―――――――――――――

本日の会議に付した案件

 日本国憲法の改正手続に関する法律案(保岡興治君外五名提出、第百六十四回国会衆法第三〇号)

 日本国憲法の改正及び国政における重要な問題に係る案件の発議手続及び国民投票に関する法律案(枝野幸男君外三名提出、第百六十四回国会衆法第三一号)


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     ――――◇―――――

中山委員長 これより会議を開きます。

 第百六十四回国会、保岡興治君外五名提出、日本国憲法の改正手続に関する法律案及び第百六十四回国会、枝野幸男君外三名提出、日本国憲法の改正及び国政における重要な問題に係る案件の発議手続及び国民投票に関する法律案の両案を一括して議題といたします。

 本日の議事について申し上げます。

 本日は、午前に行われました小委員会での両案中の国民投票運動規制・罰則に係る事項の審査について、小委員長からその経過及び概要の報告を聴取し、小委員である委員から発言していただいた後に質疑を行い、小委員以外の委員各位にも小委員会における議論について認識を共有していただけたらと存じます。

 それでは、まず、小委員長から報告を求めます。日本国憲法の改正手続に関する法律案等審査小委員長近藤基彦君。

近藤(基)委員 日本国憲法の改正手続に関する法律案等審査小委員会における審査の経過及びその概要について御報告申し上げます。

 本小委員会は、本日、会議を開き、参考人として、ジャーナリスト・真っ当な国民投票のルールを作る会事務局長今井一君、日本弁護士連合会副会長吉岡桂輔君、成蹊大学法学部講師福井康佐君及び日本自治体労働組合総連合副中央執行委員長田中章史君をお呼びし、日本国憲法の改正手続に関する法律案及び日本国憲法の改正及び国政における重要な問題に係る案件の発議手続及び国民投票に関する法律案、特に国民投票運動規制・罰則について御意見を聴取した後、これらの参考人に加えて、日本弁護士連合会副会長松本光寿君及び日本弁護士連合会憲法委員会事務局長菅沼一王君にも御参加いただき、懇談を行いました。

 会議における参考人の意見陳述の内容を本委員会全体で共有するために、その概要を簡潔に申し上げますと、

 今井参考人からは、

 公務員、教育者の地位利用による国民投票運動を容認してはならないが、その禁止規定を憲法改正手続法に盛り込むことには反対であり、これらの行為に対しては、日本国民の良識の力、日本社会の民主主義力をもって対処するのが基本であるとの意見が述べられました。

 その根拠として、本年の海外調査における意見交換においても見られるように、諸外国においては、公務員等の国民投票運動について常識的判断にゆだねられ、行き過ぎは国民的批判により抑制されることが基本的姿勢とされていること、我が国の住民投票においても買収等に対する罰則規定がないが、大きな混乱は見られなかったことが挙げられました。

 吉岡参考人からは、

 憲法改正国民投票は、憲法改正についての国民の意思決定を仰ぐものであり、特定の候補者を当選させるために行う選挙とは性質が大きく異なるため、公職選挙法の規制をそのまま用いるべきではないとの見解が述べられました。

 その上で、国民投票運動が規制される特定公務員に裁判官、検察官、警察官などを含めること、公務員、教育者の国民投票運動を地位利用という不明確な概念で規制すること、組織的多数人買収・利害誘導罪を設けることについて、それぞれ反対であるとの意見が述べられました。

 福井参考人からは、

 一般に、投票者は国民投票、住民投票において、情報不足のときには反対票、すなわち現状維持の方向に投票すると言われており、投票案件に不安を感じると反対票を投じる傾向があり、反対キャンペーンが非常に有効であるとの説明がなされました。このような傾向に対しては、度を超えた反対運動を容認すると必要な改革ができなくなるとの否定的評価ができる一方、国民の判断の一つであり、国民がみずから最後のとりでになっているという肯定的評価もできるとされました。

 また、政党間、政治的エリートの合意が成立しても、一般国民の意識との間に差があることが多い、投票案件が確定してから時間がたつと反対票がふえる、政権に対する批判、政権の人気が影響しやすいとの説明がなされ、国民投票法制の整備に当たっては、情報の流通と議論の拡散を保障する方向での国民投票運動のあり方が望ましいとの意見が述べられました。

 田中参考人からは、

 憲法改正という国政上の重大問題に国民が主権者としてこの国の統治過程に参加するためには、憲法改正にかかわる情報の自由な交換、賛否の意見の自由な発表及び知らせるための表現の自由が最大限に尊重されなければならないのであり、国民投票運動は自由を基本として原則として規制はすべきではないとの見解が述べられました。

 その上で、特定公務員の国民投票運動の一律禁止を削除すべきである、公務員等の地位利用も削除すべきである、少なくとも国民投票運動については国家公務員法の政治活動の規定の適用除外を明記すべきであるとの意見が述べられました。

 このような参考人の御意見を踏まえて小委員及び参考人の懇談が行われ、小委員及び参考人の間で活発な意見の交換が行われました。

 その概要を簡潔に申し上げますと、

 小委員及び参考人からは、

 不適切な国民投票運動に対する対処のあり方、すなわち罰則を設けることの是非、地位利用概念の不明確さ等に起因する国民投票運動規制の濫用のおそれやその萎縮的効果のほかに、憲法改正手続法を制定する時期、国民主権行使のための国民投票法制の制定の必要性、広報協議会における広報のあり方、想定される一般的国民投票のイメージ等について、さまざまな角度から問題提起を行う発言がありました。

 特に、今回のテーマである国民投票運動規制・罰則について申し上げますと、国民投票運動に対する基本的な考え方としては、人を選ぶ選挙と国のあり方を決定する憲法改正国民投票とは、その性質が異なり、公職選挙法上の運動規制をそのまま国民投票運動にも規定することはできないこと、主権者国民が憲法改正についての賛否を判断するためには、自由闊達な意見交換が不可欠であることから、規制は必要最小限とし、できる限り自由にすべきであることに異論はありませんでした。

 その上で、各論としては、まず、国民投票運動が規制される特定公務員の範囲については、与党案では選管関係者等のみならず裁判官、検察官、警察官等も含めるべきであるとされている一方、民主党案では選管関係者等に限定すべきであるとされておりますが、与党案提出者から、海外調査の内容を踏まえ、この点は今後検討の対象とすべきであるとの意見も述べられたところであります。

 次に、公務員等、教育者の地位利用による国民投票運動規制については、与党案ではこれを規制すべきであるとされている一方、民主党案では規制すべきではないとされておりますが、民主党案提出者から、主権行使の重要場面である国民投票運動の重要性にかんがみ、民主党案についても国家公務員法等の政治的行為の制限規定の適用除外を明記するような修正案を考えているとの意見、与党案提出者からもそのような修正は検討に値するとの意見も述べられました。

 国民投票運動に係る買収・利害誘導行為については、与党案では、組織的多数人買収・利害誘導行為を規制すべきであるとされている一方、民主党案では、そのような限定は困難であり、規制すべきでないとされておりますが、与党案提出者からも、規制されるべき買収・利害誘導行為の範囲をさらに限定することを工夫したいとの意見も述べられました。

 会議を通じての小委員長としての感想を申し上げれば、憲法改正国民投票が国民の主権の行使の一場面であることから、主権者国民の意思が国民投票の結果に公正に反映されなければならないという要請がある一方、国民投票は国民の自由闊達な意見交換を踏まえた上でなされなければならないという要請があり、双方の要請のバランスが重要であるところであります。この点、必要最小限の規制を置きつつ、国民投票運動の自由を最大限保障する必要があることについて、各小委員に共通の認識が形成されてきており、各小委員の間の見解の相違が縮まってきつつあることを改めて認識いたしました。

 今回のテーマである国民投票運動規制・罰則の問題は、まさに憲法改正国民投票のあり方そのものに直接かかわる問題であると考えております。本委員会におかれましては、小委員会における議論を踏まえて、さまざまな角度から国民投票運動規制・罰則に関する議論をさらに深めていただければと思っております。

 以上、御報告申し上げます。

中山委員長 次に、小委員である委員から小委員長の報告に関連しての発言をそれぞれ十分以内でお願いいたします。

 発言時間の経過につきましては、終了時間一分前にブザーを、また終了時にもブザーを鳴らしてお知らせをいたします。

 それでは、まず、船田元君。

船田委員 今、午前中の小委員会における議論につきまして、近藤小委員長から極めて簡潔かつ要を得た御説明をいただきました。特に補足あるいはつけ加えるという部分はないのでございますが、私なりの感想を少し申し述べたいと考えております。

 まず、今井参考人でございますが、今井参考人は真っ当な国民投票を実現する会の代表ということで、我々も時々招かれましてシンポジウム等を一緒に開いてきた、そういう意味で仲間でありまして、その今井参考人からは、特に公務員の地位利用あるいは国民投票運動の禁止ということについてはなるべく法的に規制をするのではなくて、やはり国民の常識とか良識に従って対処すべきである、このような御発言でございました。

 私自身としては、我が国の公務員であれ一般の人間であれ、最近の常識というものが日本ではだんだんわからなくなってきているということもありますけれども、しかし、今井参考人のお話を聞いている中で、我々与党としてのこの法案の中で、法的に規制をする部分につきましては若干やはり厳し過ぎるのかなということを改めて感じた次第でございます。我々ももう少し性善説に立ってやっていくべきかな、こういったことも教訓として与えられたものでありますので、今後の与野党協議、これからこの委員会の中で実際に議論しながら行われると思いますけれども、なるべく柔軟に対応する必要があるということを改めて感じた次第でございます。

 それから、吉岡参考人の御意見、これも日弁連のお立場から大変詳細に、また法的な対応につきましても正確な御説明をいただいたわけであります。

 ただ、その中で私がちょっと疑問に感じましたのは、この憲法改正が是か非か、あるいは憲法の改正の中身はどうあるべきか、こういった議論の前に手続法を議論するというのは時期尚早ではないか、こういう話が出ました。むしろ私は、そういった憲法改正の是非などに問題が移る以前に、この静かな環境のもとで共通のルールをつくるということの方が大事であって、今まさに手続法を議論する時期である、こう主張したわけであります。

 なお吉岡参考人からは、どうも今回の手続法というのは改正のための手続であるという先入観をお持ちのようでございまして、これは私は、この手続法が決定したからといって、最終的に改正するかしないかを決定するのは国民自身の判断である、こう思っております。だから、改正をするために手続法をつくるという考えではないということを改めて強調しておきたいというふうに思っております。

 三人目の福井参考人でございますが、諸外国の直接民主制あるいは国民投票制度、大変さまざまな角度から実例を挙げて実務的に説明をいただきました。大変わかりやすい、また本当に現実性のあるお話でございましたが、その中で印象的だったのは、国民が国民投票を行う際に、情報不足、情報が欠如しているときには国民の行動というのは大まかに言って反対の方向に動く傾向にある、国民ははっきり物事がわからないというときには保守的になる。つまり、後戻りのできない状況に追い込まれたときには、やはりもとに戻ろうという傾向がある、慎重な投票行動をするのが国民の大体のパターンではないか、こういうお話でございました。

 そこから得られる一つの教訓は、我々としても、この後また、きょうの議題ではありませんけれども、国会としてこの憲法改正についての改正案の中身、解説、あるいはなぜ賛成であるか、なぜ反対であるかということを広報協議会というものを設けて国民に広く広報する予定でございますけれども、その広報協議会においては、やはり国民の間で情報不足ということが起こらないような徹底した広報活動が求められているんじゃないのかな、こういうことを強く感じた次第でございます。

 なお、福井参考人のお話の中で、国民投票の投票率を上げるという中で、現在あるいはこれから将来、国民投票に付するというころになって、そのときに盛り上がっているテーマ、国民の間で議論が盛り上がっているテーマをむしろ積極的に取り上げて、それを憲法改正の中身というんでしょうか、憲法改正をするかしないかの設問にどんどん入れていくべきである、こういった趣旨の御発言もありましたが、これはちょっと本末転倒ではないかなというふうに思っております。国民の間で盛り上がっているからそれをテーマとして取り上げるということは、ちょっとこれは順番が逆ではないのかといったことを感じた次第であります。

 最後に、自治労連の田中参考人でございますが、私も質問いたしたのでございますが、この自治労連としてのお考え、確かに国民投票制度自体反対であるということを表明されましたけれども、しかしながら、もし提案をされれば、それをよりよい制度にするために議論するということは今後も大いにやっていきたい、こういった大変前向きの議論をしていただきました。その賛否は別として、議論するということが今大事であるということを改めて田中参考人からも教えられたということを感じた次第でございます。

 感想めいたもので恐縮でございますが、以上でございます。

中山委員長 次に、枝野幸男君。

枝野委員 民主党の枝野でございます。

 きょうの午前中の参考人の皆さんとの懇談で、幾つか論点が少し整理をされてきたかなというふうに思っております。

 一つは、小委員長からの御報告にもございましたが、公務員等の運動規制を原則なしにする、これは例外をどれぐらいつくるかということでは与党案と我々違いますが、原則なしにするということでは一致をしておりますが、その場合に、一般の公務員法の活動規制がかぶってくるときに、若干、国家公務員法、人事院規則と地方公務員法とのでこぼこが、むしろ実態は本来の姿と逆で、地方公務員の方が縛られるという話になったりしますので、これは提案者としては事前にチェックをかけておくべき問題であった。技術的なミスでありますので、これは一般的なこの法律以外のところで、結果的に原則自由にならないということにならないように、他の法律でも国民投票運動については原則自由になるような部分をつけ加えるという修正を、これは提案者が自分で修正案を出すわけにはいかないのかもしれませんが、したいというふうに思っております。

 その上で、一つは裁判官とか検察官、これは与党案には規制の対象になっているわけですけれども、私が注目いたしましたのは、日弁連からの意見の中で、例えば商法を改正しようというときに、商事関係の裁判をしている裁判官が論文を書いて出したりすることがあるじゃないか、そういうことを考えたら裁判官が意見を言ったりするのはある意味当たり前ではないかみたいなことがありまして、それはそうなのではないのかなと。その上で、今井さんなどが強調されている、少なくとも裁判官とか検察官とかということに限って言えば、常識の範囲内でいわゆる意見表明の範囲にとどまる行動をされることは十分に期待できるのではないのかなというふうに思いますので、やはりここは要らないのではないだろうかというふうに思います。

 どうしても残るのは、地位利用と報酬ということだと思います。

 一般的に公務員に地位利用の場合には運動規制がかかるわけですが、この地位利用の範囲があいまいであるというのが我々の立場であり、きょうの今井さん、日弁連、そして自治労連のそれぞれ共通した御意見でありました。それから、買収罪のところでの報酬の意義。範囲がどこまでになるのかということもあいまいではないのか。あいまいであるならば、今井さんのお話のとおり、常識の範囲内で、常識でみんな判断し、余りおかしなことをやれば世論、メディア等が批判をすることになるのではないかということになるんだろうというふうに思います。

 この点については、私も率直に言って、本当に、まさに地位をかさに着て、言うことを聞かないと協力しない、仕事をやらないぞみたいなことを公務員がやったり、それから、べらぼうな何十億という金をかけて買収をやったりとかということがあればまずいんだろうなとは思うんですが、実際に今の与党案の地位利用や報酬という構成要件で逆に萎縮効果が出ないような限定ができているのか。きょうの参考人からの意見は、特に専門家である弁護士会からなどの意見を聞く限りにおいても、やはりこの文言では萎縮効果が生じるという不安の方が大きいと思わざるを得ないと思っています。

 きょうの御意見の中で特に二つの点を強調してお伝えしておきたいと思います。

 一つは、今井参考人が、良識、常識に信頼をしてというのは現実を甘く見ているわけではない、現実に住民投票などの現場で現金をばらまいている現場も見たし、組織ぐるみで事実上圧力がかかっているとしか思えないような場面も見てきている、見てきているけれども、憲法のような、まさにみずからの直接の利害関係と結びつくのではなくて、この国の形をどうするのかという話のところでそういったことが行われれば社会的にも糾弾をされるであろうし、また、そういうことは余り起こらないのではないかと現実も踏まえた上でおっしゃっているんだ、理想論だけを言っているわけではないという御指摘があったことであります。

 それからもう一つは、地位利用や報酬が構成要件としてどれぐらいきちっと限定されるかということについて日弁連が質問をされたときの答えで、我々が執行権を持っているわけではないというお答えがありまして、まさにそのとおりで、結局は最高裁判所が結論を出さないと、我々がここでどう答弁をしようが、ここまでですと言おうが、それは何の法的拘束力も持たないわけでありまして、そして、もし、例えばある行為が報酬には当たらないとか地位利用には当たらないと最高裁判所が判断することがあったとしても、日本においては現実的に逮捕、起訴をされれば大変大きな社会的ダメージを受ける、これが現実でございますので、したがって、そういうことが起こる可能性があるということで十分に萎縮効果が生じると。これはそのとおりであろうというふうに思います。

 きょうの懇談の中で、与党の皆さんに、特に地位利用については従前の例、これは既にいろいろな法律の構成要件としてあるものですから整理して、限定されているということの証明責任はそちらにあるんじゃないですかということを私は申し上げて、それは用意しますとお答えいただいたんですが、やはり最高裁判例でなければ意味がないのではないか。最高裁判例で、例えば地位利用についてはこういうふうに限定されているからこれ以外の運用はされない、これならば安心になるだろうというふうに思いますが、そうでないとすると、明確に文理上拡大の余地がない、ここまでだということがきちっと読める場合でなければ拡大解釈のおそれによる萎縮的効果というのはやはり心配せざるを得ない。

 そうすると、ぐるっと回って、良識、日本の民主主義を信頼する、逆に言えば日本の民主主義を信頼しなければ我々自身の正当性がなくなるわけでありまして、我々が今ここにいるのは、日本の民主主義は健全であるから我々は正当性がある。特に多数を持っている与党の皆さんは、日本の国民は優秀であって適切な判断をしているという前提に立たないと皆さんの正当性はなくなるわけでありますので、ぜひそういう前提でさらに議論を進めていただければというふうに思います。

 以上でございます。

中山委員長 次に、赤松正雄君。

赤松(正)委員 公明党の赤松正雄でございます。

 私の方からは、きょうの小委員会を受けて感じたこと、今小委員長並びにお二方からあったのにつけ加えまして感想を申し上げます。

 まず、四人の参考人といいますか、日弁連は複数の方が出ておられましたけれども、四人の方々のうち日弁連と自治労の方は、要するに憲法改正手続のための国民投票法に対して、先ほど船田委員からもありましたけれども、憲法本体の論議と結びつけることに対する懸念を明らかに持っておられて、それぞれの組織の中で大変な意見があった、とりわけ日弁連の中では大変な意見が分かれたというふうな指摘があった。あと今井参考人と福井参考人の方はそういうふうな観点ではなくて、積極的にこの手続法について意見を述べよう、そういう賛成の観点から述べようというふうに認識しておられるんだなという印象を受けました。

 私は、憲法本体の論議とルールとしての手続法というのは明確に分ける必要がある、当然のことでありますが、そういうふうに思っておりますが、結びつけるんじゃないのかという懸念はそれなりにわかる思いがいたします。しかし、そこには明らかに仕分けをして考えて、勇気を持ってこの論議に取り組むということが大事ではないのかという印象を持ちました。不磨の大典化させてしまうということでは断じてあってはならない。やはり憲法九条も含めてしっかりと議論をしていくということが大事であるということを痛感している次第でございます。

 そんな中で、例えば、小委員とのやりとりの中で印象深かったやりとりは、改憲に反対の人にとっては手続法は要らない、こういう発言に対しまして、今井参考人の方から、九条についてはっきりさせた方がいい、この国民投票でもって決着をつけるということが大事だ、こんなふうな発言がありましたけれども、一つ印象に残りました。

 もう一つは、福井参考人の方から、仮に九条をめぐる議論というものが進んでいって賛成か反対かといったときに、反対ということが多数を占めた場合に、現行憲法の九条一項、二項の規定を反対するといったら、どこまでか、現状に戻すのか、それともそうでないところまでさかのぼるのかといいますか、そういうふうな、九条反対が多数を占めた場合の考え方というものを明確にしておかなくちゃいけないという指摘、これも極めて印象に残った指摘であったように思います。

 また、福井参考人のお話の中で、情報の流通と議論の拡散を保障する方向の選挙運動のあり方が望ましいということで、賛否両論、自由闊達に激しく意見を述べ合うことが非常に大事であるということも改めて痛感をいたしました。先ほど船田委員からもありましたし、小委員長の報告にもありましたけれども、公職選挙法における特定公務員の選挙運動の禁止と比較して、この手続法における禁止の範囲が広くかつ重いといいますか、そういうふうなことについては十分にさらに再考していく余地があるということを私も痛感した次第でございます。

 以上です。

中山委員長 次に、糸川正晃君。

糸川委員 国民新党・無所属の会の糸川正晃でございます。

 本日、午前中から、小委員会におきましてテーマを設定した議論が始まったわけでございます。私も、主権者たる国民の声を国の基本法たる憲法にいかに反映させるかにつき、極めて重要な意義を有する国民投票法というものをよりすぐれたものにつくり上げていきたいというふうに思っております。

 午前中の小委員会に参加して感じた点を幾つか申し述べさせていただきたいと思います。

 まず、国民投票運動につきましては、何度も確認されていることでありますが、憲法に国民の声を反映させるためには、国民一人一人が自由に国民投票運動を行い、自由闊達な意見を闘わせることが極めて重要であり、必要であるというふうに思います。そのためには、国民投票運動は原則自由として、規制はあくまでも必要最小限度とするということが何よりも大切ではないのかなというふうに感じたわけでございます。

 特定公務員の国民投票運動禁止の是非について議論がございました。この点、与党案におきましては、中央選挙管理会の委員と裁判官、検察官、公安委員会の委員、警察官の国民投票運動が禁止されているのに対しまして、民主党案におきましては、中央選挙管理会の委員等の国民投票運動が禁止されておるわけでございます。国民投票運動は原則自由、規制は最小限という原則からいたしますと、特定公務員の国民投票運動の禁止につきましても、なるべくその範囲は小さい方がよろしいかと思います。一方、職務の性格や強制力によりまして投票人の意思決定に対しほかの一般国民ではなし得ない大きな影響を及ぼすことのできる公務員が自由に国民投票運動を行うことができるとなってしまっては、国民投票の公正さを疑わせることとなりまして、ひいてはその結果に対する信頼も揺らぐことにはならないのかなという危惧がございます。

 次に、地位利用によります国民投票運動の禁止についてでございますが、与党案におきましては、公務員と教育者の地位利用による国民投票運動が禁止されている一方、民主党には当該条文がございません。この点につきましてはまた質疑の際に取り上げさせていただこうと思っておりますが、このような行為を許すべきではないということは理解できるわけでございますが、逆に、本来規制すべきではない行為まで規制してしまう危惧も感じるところであります。

 また、インターネットを利用した国民投票運動につきましてぜひ指摘をしておきたいと思うのですが、インターネットを利用した国民投票は、近年インターネットが社会に対して与える影響というものが極めて増大しているということを見ますと、国民投票運動におけるインターネットの位置づけというものは真剣に議論しておかなければならない問題であるというふうに考えます。この点につきましては後ほど質疑において取り上げさせていただきたいというふうに考えております。

 次に、罰則についてでございますが、国民投票運動の自由を保障する上で特に重要なのが、罰則規定をどのように整備するかということであります。特に買収罪につきまして、与党案には組織的多人数買収及び利害誘導罪が設けられているのに対しまして、民主党案につきましては買収罪の規定はございません。これにつきましても対価性が極めて明らかな場合につきましては、買収行為は許すべきではないと思いつつも、行為の外延を明確に切り分けることができるのかという危惧もございます。どのようにしてこの思いを解決すればよいのか、悩ましい点でもございます。

 最後に、当委員会のメンバーから成る海外調査団がこの夏に派遣されまして、私もその報告書は拝見させていただきました。今井参考人の意見にもございましたように、この報告書には私が申し上げました問題点を解決する方策というものがたくさん隠されておるように思います。海外派遣で得られた知見を最大限に活用いたしまして、問題の解決を見出すべきだと感じた次第でございます。

 以上、私からの補足発言とさせていただきます。

中山委員長 次に、笠井亮君。

笠井委員 日本共産党の笠井亮です。

 私も午前中の小委員会に参加をいたしましたので、三点、補足的に発言をしたいと思います。

 まず第一は、やりとりの中で、今回の手続法案をめぐって参考人の方々が見えて、そしてそれに意見を言わなければならない動機ということで、特に日弁連や自治労連の田中参考人から、共通して、現実の改憲の動き、とりわけ自民党の新憲法草案に対して立憲主義、恒久平和主義を覆すものではないかという強い危惧や反対が表明されたことが印象的でありました。

 そういう日弁連の参考人の方々からの発言の中で、先ほど船田委員から受けとめの御紹介がありましたが、私は逆に、静かなうちにルールというのではなく、むしろ改正のためにつくろうとしていて、一挙に改正が進むのではないかという議論があるということで、紹介されたのはむしろ当然の受けとめではないかというふうに感じた次第です。

 自治労連の田中参考人は、現在の法案については、昨年の自民党の新憲法草案を見て、立憲主義の原則を踏み越えて改憲を進めるため問題であって反対だということも明確に言われたというふうに受けとめました。また、議論の中で、福井参考人がやはり国民の中で盛り上がってから改憲をするのが筋だというふうに言われた言葉がすごく頭に残っております。

 二つ目に感じたことでありますけれども、前回の委員会審議の中でも、私は、憲法制定権を持つのは国民であって、憲法問題ではその国民の意思が一番基本で、それが最大限反映されなければならないということを申し上げまして、両案の提出者もそのとおりだということでおっしゃいました。私、そのときに、ところが提案されている法案というのはその一番肝心な国民の意思を冷静かつ客観的に反映する仕組みにはなっていなくて、率直に言って通しやすい仕組みだ、これははっきりしているということで指摘をしました。きょうのやりとりを通じて、きょうのテーマは国民投票運動の規制、罰則規定の問題でしたが、共通して、やはりそういう規定、あるいはそういう規制や罰則については否定的で、やるべきではないということが出されたと思います。

 今井参考人から言われた中で、私も非常に印象に残りましたが、公務員、教育者の地位利用というのが実際あったとすれば、それをどうやって制御するかというのは国民の良識の力と日本社会の民主主義の力をもってやるんだというのは、なるほどそのとおりだというふうに思ったところであります。

 また、日弁連の参考人の意見表明の中でも、憲法改正手続においては国民の意見表明の自由が確保されなければならないということで、この問題についてもるる述べられて、そして憲法改正についての国民の意見表明の自由や国民の間で自由闊達な議論が交わされることについて萎縮的効果を生じさせる危険の存する規定には反対せざるを得ないと、明確に言われたのが印象に残っております。

 福井参考人は、投票者は特に後戻りできない決定については慎重に判断する傾向にあって、特に九条についてはそうだと。自衛権の問題でも、それを広げて海外に派兵ということについては、そういうことがあるのではないかと言われながら、いずれにしても情報の流通と議論の拡散を保障する方向の運動のあり方が望ましいんだと。硬性憲法だ、慎重に法の問題、運用の仕方を考えるべきだというふうに言われました。

 さらに、自治労連の田中参考人からは、現場の公務員としての思いということで、特に御自身が公務員になったときに宣誓書に署名捺印したと。そこには、「私はここに、主権が国民に存することを認める日本国憲法を尊重し、且つ、擁護することを固く誓います。私は地方自治の本旨を体するとともに、公務を民主的且つ能率的に運営すべき責務を深く自覚し、全体の奉仕者として、誠実且つ公正に職務を執行することを固く誓います。」というふうに署名捺印して公務員になったんだ、宣誓書に署名捺印したんだ、これを原点にしてきたということで、言われたことの重みというのを改めて感じました。そして、憲法を生かした国と自治体づくりに取り組む、そういうつもりで本当に一生懸命努力しているということから見て、特に、こういう服務の宣誓をした公務員五百万人の自由な活動を制限して、罰則を設けることは問題だということで反対の立場を述べられた。

 地位利用でない国民投票運動までも規制の対象にしている国家公務員法は適用除外を明記すべきだということで、現在の憲法を守って生かすべきだ、世界の世論も九条を守った国際貢献を求めているということを強調されたというのが私は大変重要だというように思いました。

 三つ目に、具体的に私自身も質問して、参考人からも意見を伺ったことについて紹介したいと思います。

 一つは、日弁連の御意見の中で、憲法改正を行うか否かは、国の最高法規たる憲法に関して主権者たる国民の意思を直接に問うものであって、最も根源的に国民、市民の自由な活動が保障されなければならないということを言われました。

 そして、国民投票運動なる問題について関連して私は伺ったんですが、今出されている案では百二条でその概念を定義している、その中で「勧誘する」ということが言われているわけですけれども、これは運動規制の規定を置くことを前提にしていると考えられるけれども、そういう立法思想について国民主権原理との関係でどう考えるかということを伺いました。それに対して日弁連の参考人からは、当選に結びつく選挙のための運動と憲法改正にマルをつけるということで問われるわけだけれども、それは憲法改正ということではマルをつけるかどうかというだけではなくて、国民の中に憲法のあり方でいろいろな議論、いろいろな意見表明の自由があるが、それに向かった活動、運動の概念が違うということはあるのではないか、そういう中で運動という言葉に抵抗があったというふうに受けとめを言われました。そして、運動ということについては規制を目的としている意味があるのではないか、勧誘ということは投票行為に結びつくということで限定できるのかどうかということについては抵抗があるというお答えがありました。

 具体的な問題の二つ目に、これも日弁連に伺いましたが、公務員、教育者の自由な活動、運動を不当に規制して萎縮させる現実的危険性を持つものであるという御意見がありましたので、この現実的危険性についてはどういうことを想定しているかということを伺いました。これは具体的な事例があったということではないがということで、お答えでは、学校現場で問われてなかなか微妙なことになる、それが結局、最高裁でいずれ判断が下るわけだけれども、そういうこと自体が萎縮効果を生むことになるということを感じていると言われたというのが印象に残っております。

 その他ありますが、田中参考人に伺った中で、公務員の現場の思いとして、実際に地位利用と無縁な勤務時間外で行われた政治的行為でさえも、最近の事例で見ると警察権力の介入など濫用の事例が起きているということで、そのことも含めて削除すべきであるという御意見がありましたので、具体的な事例ということで紹介をしてもらいました。日曜日に時間外で職場から遠く離れた地域でビラをまいたということで国公法にかかった堀越事件があったということも含めて、やはりこの問題というのが非常に萎縮効果を実際に現場で生んでいるという紹介があったというのが印象的であります。

 最後になりますが、こういうやりとりの中で、提出者は、やはり過半数ということでいうと投票率を上げる必要があるんだ、そこでは実際には運動を活発にすることと周知広報を徹底するというふうに言われてきましたが、運動を活発にすると言いながら実際には規制や萎縮効果を生むようなことをやる、これで本当に投票率が上がるのかという問題も出てくると思います。結局は、賛成票はふえるけれども最低限の賛成で改憲が通るということにならざるを得ない、これで本当に国民主権の具体化ということになっているのかということは、やはり大きな問題があるということを感じました。

 以上です。

中山委員長 次に、阿部知子君。

阿部(知)委員 社会民主党・市民連合の阿部知子です。

 私は、まず、本日午前中、四人の参考人の方から、原則として自由闊達な議論と運動、そして罰則についてはなるべく必要ないというお考えを伺い、国民投票法ということをめぐってはそうした方向性が確認されることは私どもとしてもやぶさかではないと思いました。しかしながら、一方でまだ残ります大きな疑問は、なぜ今この時期かということでございます。この件に関しましては、先ほどの他の委員の御紹介にもありましたが、やはり全体的に憲法改正論議が活発な時期、その時期をきちんと踏まえて行うべきであるという意見も強くあることと承知しております。

 そして、私は、何よりも、実は日本国憲法の九十六条は、公平で最も民主的な手続を要請しているという観点に立った場合に、そもそも主権者たる国民の憲法制定権の行使がどのような形できっちりと担保、保障されるものであるかという観点に立った場合に、御紹介いたしましたが、諸調査において国民投票法を御存じですかと聞かれたときに六六%がまだ御存じではないというような状況の中で、逆にむしろ国会が先行して決めていくということが主権在民のありかとしていかがなものかという思いを今も強くしております。すなわち、憲法改正と国民意識のずれが大きいまま拙速に制度化を図ることには断固反対であるということを冒頭申し添えたいと思います。

 さて、国民投票運動の自由が最大限保障されるべきだという各委員の御発言、そして与野党の提案者の皆さんもその一点においては御同様であるという御見解をいただきましたが、私は、あえて言えば、総論賛成、各論反対になりかねない懸念を多少覚えたところもございます。

 例えば、私が現在ちょうだいしております与党案の法案等々の中では、法案の三分の一を国民投票運動の規制や罰則の規定が占めておりまして、このような形であれば、今後お変えになっていくということではありますが、憲法の改正に、改悪という言い方もされましょうが、反対するほとんどのすべての意見表明が規制されることにつながりかねないと思っております。

 そもそも国民投票に関し憲法改正に対し賛成または反対の投票をさせる目的を持ってする運動というのが規制対象とされておりますが、この国民投票運動という概念自体があいまい、漠然といたしておりまして、いかようにも拡大解釈がされるということが懸念されます。それが自由闊達な言論や運動とそごを起こさないものであるのかどうか、漠然さゆえに大変に気になります。

 また、本日の午前中の懇談の中で、与党の皆さんも、裁判官、検察官、公安委員会の委員あるいは警察官については規制は広範囲に過ぎるのではないかという点はお認めになったようでありまして、それ自身は可といたしますが、さらに地位利用というところの問題ももっともっと厳密に絞り込んで話されるべきだと思います。

 地位利用という言い方自身も大変にあいまいであるに加えて、この地位利用という言い方によって表現の自由や学問、教育の自由も制約されるということが、例えば教職員の場合は大きく懸念されます。それがまた、ひいては、国民にとっては得がたい重要な情報提供が困難になるということと国民運動の盛り上がりを欠くことにもつながりかねません。そして、そもそも、ただでさえ公務員法や人事院規則等によって公務員の政治活動は厳しく制限されていること自体に、私ども社民党は憲法上の疑義があると考えております。

 国際人権規約のB規約、市民的及び政治的権利に関する国際規約は、市民的及び政治的自由が例外なく当然保障されるべきことを定めております。ILOの百五十一号条約においても、公務員も他の労働者と同様に結社の自由の正常な行使に不可欠な市民的及び政治的権利を有すると定めております。さらに、ユネスコの教員の地位に関する勧告も、教員は当然一般に享受する一切の市民的権利を自由に行使すべきとなっております。教職員、公務員に政治活動あるいは選挙活動の自由を逆に国民、労働者と同様に保障することが国際的な水準であるという見解に立つものでありますから、これは与党並びに民主党の皆さんにも、この地位利用のところで、公務員の運動制限並びに教職員の運動制限のところで、さらに詰めてお考えをいただきたい部分と思います。

 加えて、罰則は設けるべきでないという点も、これは当然ながら公職選挙法上の罰則等々と違ってまいりますので、ここについては御同意がなされておりますと信じたいですが、しかしながら、例えば今回の与党案においても、投票管理者等の特定公務員の運動規制違反に関しては六カ月以下の禁錮としているにかかわらず、一般公務員については禁錮二年以下、教育者については禁錮一年以下と、さらに重い刑罰が科されております。こうなると、公務員や教育者が重罰の対象とされるということになっておりまして、本当に自由闊達な運動と言えるのかどうかの疑義が生じます。

 また、組織的多人数買収罪及び利害誘導罪は不要と考えておりまして、この点についても時間があればお話をさせていただきたいと思います。

 まとめまして、本委員会の海外調査でも明らかなように、ヨーロッパ諸国では与党案のような広範な規制は全く存在しておりません。本来、憲法九十九条にのっとり公務員は憲法を尊重し擁護する義務を負っております。それが改憲に当たって意見の表明を余りに規制されるということになれば、九十九条にも抵触してくると言わざるを得ないと考えます。改憲のムード一辺倒のその流れの中で、改憲のための法的基盤に格好を整えるための国民投票法案では、やはり民主主義の原則、国民主権の原則ということにもかかわってまいります。憲法の理念にのっとった国民の意思を公正に反映できるような民主的な国民投票制度のあり方について、今後もじっくりと時間をかけて論議していただきたいと思います。

 以上です。

中山委員長 これにて小委員である委員からの発言は終了いたしました。

    ―――――――――――――

中山委員長 質疑の申し出がありますので、順次これを許します。柴山昌彦君。

柴山委員 自由民主党の柴山昌彦でございます。

 本日のお話をお伺いしまして、与党あるいは民主党の提案者の皆様ともども、国民投票運動の保障を最大限図っていかなければいけない、表現の自由あるいは学問の自由、政治活動の自由に照らしてそのような意見を持っているということを改めて認識した次第です。

 しかしながら、両案ともにこれに対する規制を容認しております。そこでそれぞれの提出者にお伺いしたいのは、そのような規制によって守ろうとする利益は一体何なのか、これについて手短にお答えをいただきたいと思います。

保岡議員 まず、特定公務員の国民投票運動の制約の条項については、中央選挙管理会の委員等というのは、やはり手続の中立性、公正さを担保するという意味で、最もその手続に直接携わる方たちですから、これは運動にかかわることを禁止して、中立性やその信頼を保護法益と考えていいんじゃないでしょうか。

 それから、裁判官や検察官、公安委員会の委員、警察官というのは、その職務の性格や強制力によって投票人の意思決定に対して他の一般の国民ではなし得ないような大きな影響を及ぼすおそれがある職種のものであるという意味で、国民の自由闊達な意見の表明とか、国民投票運動の盛り上がりなどに対する自由、公正さというものを保護法益にしていると考えていいのではないかと思います。

園田(康)議員 柴山委員にお答えを申し上げます。

 民主党の場合は、私どもは保護法益としては、国民投票の投票そのものにかかわる自由な運動というものが行われるべきものであろうという形から、この国民投票そのものの自由と公正をしっかりと担保していきたいというふうに考えた次第でございます。

 したがって、この国民投票運動そのものに関しましては、いわゆる国民の意見表明、政治的な意見表明というものがきちっとここで担保されなければいけない。そこにかかわる規制をかけていくということになれば、すなわち、先ほどから議論が、午前中でも出ておりましたけれども、萎縮効果を生んでしまうことになってしまうというところから、ここに関しましては少なくとも必要最小限度のものにとどめようという形で、例えば投票事務関係者、そういったところでの運動禁止というものを設けたということでございますけれども、そのほかにつきましては私どもは原則自由という形をとらせていただいている次第でございます。

柴山委員 基本的には、両案とも自由な意思表明を確保するための公正性の確保ということを中心としていると思います。

 ただ、ここでちょっと問題提起をしたいんですけれども、公務員の政治活動の禁止、これは公職選挙法等に規定されている、あるいは国家公務員法等に規定されているわけですけれども、この場合の保護法益としては公務の中立性に対する国民の信頼ということが挙げられるのではないでしょうか。

 憲法は十五条二項で公務員は全体の奉仕者であるというように定めております。また、憲法に限って言えば、九十九条で憲法尊重擁護義務が公務員には課されています。先ほど笠井委員が御指摘のような宣誓をするという行為が公務員には課されています。このような中にあって、猿払事件で問題となったように、すべての公務員について一律に国民投票運動を制限するということはいかがかと思いますが、例えば、一昔前は閣僚が憲法改正に言及しただけで首が飛んだ時代がありました。そういうようなことを考えた場合に、例えば裁判官がその担当している案件とは別のコンテクストで自由に改憲を主張するような場合に、憲法上の争点が問題となっている裁判が仮に発生した場合に、その当事者が裁判官に対して忌避を申し立てることができるんでしょうか。

 私は、公務員の職務に対する国民の信頼、中立性への信頼、こういうことを考えた場合に、最低限、与党の提案された裁判官、検察官、公安委員会の委員並びに警察官、こういった公務員の国民投票運動に関しては、意見表明にとどまる場合はいかがかと思いますが、少なくとも一定の制限というのはやはり必要になってくるのではないかと思うんですが、この点について両党の提出者に伺いたいと思います。

保岡議員 先生言われるように意見表明はだれでも自由にできるということを前提として、いわゆる国民投票に関する勧誘行為、こういった国民投票運動というものについては、先生のおっしゃるように、先ほども私も申し上げたように、裁判官等の特定公務員、あるいは場合によっては一般的な公務員でも、地位利用といったものは、職種柄、あるいはそれに伴う強制力、あるいは類型的に国民の投票の公正さに影響を与える疑義が生ずるおそれがある。したがって、らしさという信頼を確保する意味でも必要だと思って我々は提案したんです。

 しかし、いろいろ海外調査をしたり、いろいろ議論して、けさの小委員会でも議論してまいりまして、やはり裁判官にしても、デンマークなどの判事さんといろいろディスカッションしたんですけれども、そのときも、裁判官であれこの国では国民運動は禁止されていない、ただ、それはひとえに公務員の自分の立場からする自制というか常識的な対応の範囲内の問題であって、したがって公務の公正さを疑われるような場では発言を控えるようにするなどみずから判断している、特に高い地位にある公務員ほどそういうような判断をきちっとしているというお話でございました。

 そういうようなことを考えると、例えば裁判官だとか検察官だとか、そういう法律家に、むしろ節度を持った常識の範囲内で憲法に対する意見を言ったり、それに伴って多少意見表明からオーバーするような行動も目くじらを立てて何か罰則で担保して禁止する必要まであるかどうかについては、これは外国の例なども参考によく考えてみたい。与党としては、そういうふうに今後の再考を含めて検討の余地を念頭に今考え方を取りまとめようといたしております。

園田(康)議員 先ほど公務員の発言、特に裁判官について御指摘があったわけでございますけれども、今保岡委員からも発言がございましたし、本日の午前中の意見の中でもございましたけれども、いわゆるそういう地位の方々が憲法改正についての意見をされるということは、自然と意見表明という形にはなるんでしょうけれども、さらにそこから判決に絡んだ話をするというところまでは至らないのではないか、その点はそれぞれの良識あるいは常識の範囲内でおさまるのではないかというふうに考えていると同時に、そういったことがなされれば、自然とその地位に当たる方々にいわゆる常識、社会的な通念の中から批判が出てくるものというふうに考えるわけでございますので、この点は心配には当たらないというふうに私は思っております。

柴山委員 諸外国の事例については原則自由ということは、確かにそのとおりだと思います。ただ、例えばフランスのように、原則は自由ですが、公的助成を受けてキャンペーンを行う政治団体に関しては一定の規制が課されるというような事例もあることですから、やはり公的な色彩を帯びた団体あるいは機関の運動に関してはいま一度見直してもよいのではないかなという問題意識を私は持っております。

 また、公務員の地位利用の問題につきましても、威迫と呼べるようなものについてまで放置しておいてよいのかということについては、ぜひ問題提起をさせていただきたいと思います。

 次の質問に移りますが、教育者の地位利用についてでございます。

 これは公立あるいは国立学校以外に私立学校に関しても恐らく当てはまる規制なのだと思いますけれども、与党案を拝見しますと、学校の児童生徒に対して地位利用をしてはいけないという規定になっておりますが、当たり前のことですが児童は国民投票の投票権はありません、そのような事例においてまでなぜこうした地位利用の禁止を設けているのか。また、これも学説の講義をするということまで地位利用に当たるのかどうかという問題提起がいろいろな方からなされますが、この地位利用の意味についてもあわせてぜひお伺いしたいと思います。

船田議員 お答えいたします。

 今柴山委員御指摘のように、教育者の地位利用ということについては、与党案としては国民投票運動については禁止をしたい、こう考えております。これには、もし公務員法だけで対応するとすれば、私立の学校の教育者が除外されるということもありますので、これはやはりバランスをとらなければいけないということで対応したいと思っております。

 ただ、御指摘のように確かに児童は投票権者ではありませんので、児童に対して直接投票を依頼するというようなことは考えにくいわけでありますが、教育者が児童に対して間接的にその保護者に働きかける場合、その児童に対する教育者としての地位を利用して直接に保護者に働きかける場合、そういった、子供を通じて保護者に何らかの影響を及ぼし得るのではないかということに着目をしたわけでございます。

 例えば、もうちょっと詳しく申し上げれば、特定の憲法改正案に対して賛成または反対するように児童を通じてその保護者に依頼をする行為とか、保護者会の席上や家庭訪問の際に国民投票運動をするという行為、あるいは教育者が教室において社会科の科目として児童に特定の憲法改正案に賛成または反対するよう講話をする、そしてそれが親に伝わっていく、こういったような例も考えられるんだと思っております。

 ただ、この問題につきましては、先ほど来話が出ておりますように、地位利用そのものということを罰則として設けるべきかどうかということについては、なお諸外国の例を見ながら、また、きょう午前中のさまざまな角度からの議論を見ながら慎重に検討していかざるを得ない、このように思っております。

小川(淳)議員 民主党案におきましては、教育者の地位利用につきましても特段の制限を加えていないわけでございまして、議論になっております公務員の方、検察官、裁判官、教育者、これは極めて良識的な、高い良識を持った行動が常に求められているわけですから、まずはそこへ信頼を置きたいと思います。

 その上で憲法秩序には、日ごろ遵守をしていただいている公務員、教育者もこの国民投票に限っては憲法秩序に働きかけていただく主権者の一人でございまして、そういう意味でも自由な政治的な意見の表明の機会は最大限確保してまいりたいというふうに考えております。

柴山委員 続きまして、罰則に関する質問なんですけれども、与党案では国民投票運動に関する買収罪が設けられています。これについて影響を与えるに足りる物品もしくは財産上の利益等の提供ということがなかなかわかりづらいという指摘が恐らくあろうかと思います。これについてどのようにお答えになるでしょうか。また、先ほど民主党の方から指摘がありましたとおり、公務員、教員に対する取り締まりということが本当に現実的かということをお伺いしたいと思います。

 一方、民主党に関しては、こうした買収の規定が本当に不要なのか。先ほど余りないだろうというお話がありましたが、我々は起きた場合にどうするかということを議論しているわけでありまして、犯罪も同じでありまして、どんな悪質なものでも起きたときに本当にそれを放置しておいてよいのかという観点からぜひ考えていただきたいと思います。法的なペナルティーがなくていいのか、社会的非難で本当に足りるのかということについてぜひお伺いしたいと思います。

船田議員 お答えいたします。

 私どもは、組織的多数人買収罪ということで、これは公選法にも準じながらこのような規定をとりました。しかし、公選法の規定はかなり厳しいものでございますので、できるだけその要件を限定いたしました。例えば、組織によるものである、それから、多数の投票人に対して行われるものである、それから、賛成または反対の投票をしまたはしないように勧誘をするという行為がある、そして、その投票をしまたはしないことの報酬として金銭の授受がある、あるいは、賛成または反対の投票をしまたはしないことに影響を与えるに足る物品その他の財産上の利益、これはサービスも含めまして、そういったものに限定をして、買収罪という形をさらに限定していこう、こういう考えであります。

 おっしゃるとおり影響を与えるに足る物品というのは一体何だろう、こういうことでございますけれども、我々、一つは財貨性ですね、そのものが利益をその人間にどの程度与えるのかということや、あるいは市場流通性、お金を払うことによって市場で買うべきものがただで入ってしまう、こういったことが一つの条件としてはあるのではないかと思っております。

 ただ、それを突き詰めていきますと、それでもなお非常にあいまいな部分が出てくる。例えば国民投票運動の意見表明をする手段として通常使われているもの、例えばDVDであるとか、それから、反対を唱えている有名な学者が書きおろしで自分でパンフレットや本を書いてそれをただで会場で配った場合どうなのかとか、そういった問題についてはなお整理をしていく必要があるだろうということで、これはこれからまた議論を深めながらなるべくさらに限定をする方向で考えていきたいと考えています。

園田(康)議員 民主党も、御指摘のとおり一票をお金で買うような行為は当然許されるものではないという側に立つわけでございますが、しかしながら、今回そういった罰則は設けていないということは、高度に、私どもは、自由闊達な国民投票運動というものが展開されていくという、それに対する萎縮効果が働かないということを前提に置いているわけでございます。

 しかしながら、起きた場合はどうなるのかというようなお話を今ちょうだいしたわけでありますけれども、我々は主権者たる国民の政治的な意見表明の機会は最大限配慮をしていかなければいけないというふうに考えると同時に、それに対する悪質なケース、先ほどから少しいろいろ出ておりますけれども、悪質なケースがどのようなものであるのかということの構成要件、これはどうしても今の現時点ではあいまいになってしまっているのではないかなという懸念を一方で持っているわけであります。

 したがって、例えば一票をお金で買うということが、一億人の投票権者がいらっしゃるわけでありますので、その過半数を買収するという状況が果たして可能であるかどうか、あるいは秘密裏にそういったことを行うことができるかどうかというところがまだ私たちは疑問を持っているところでございます。また、それが仮に明るみに出たという形になれば、やはり、先ほどのお話ではありませんけれども、十分に社会的な制裁を受けるに足るものというふうに思っております。

 そしてまた、個人の当落を争う選挙という形ではございませんので、個人的な利害関係から買収行為へとつながる危険性については今現時点においてもそれほど高くないというふうに判断をさせていただいておりますので、今の現時点では特段そういった萎縮効果を生じさせるような罰則を設けるということは考えるに至っていないということでありますけれども、しかしながら、今後の議論の中で、やはりこれはどうしてもまずい、見過ごしておくことはできないというものが出てくれば、それにつきましては私たちも検討の余地がないということではないというふうに申し上げておきたいと思います。

柴山委員 ありがとうございました。質問を終わります。

中山委員長 次に、筒井信隆君。

筒井委員 民主党の筒井信隆です。

 与党案について質問をいたします。

 公務員等、教育者の地位利用による国民投票運動を禁止して、罰するとしております。ただ、これは国民投票運動というのが極めて漠然としているだけでなくて、地位利用も極めて漠然としているんです。これで刑罰を科すならば、これはもう罪刑法定主義に反するんじゃないかと思うわけでございまして、国民投票運動を、投票するよう、あるいはしないよう勧誘する、こういったところで、例えばこの条文のまま裁判所に行った場合に、今の場合は黙示の行為、明示の行為、両方含めて大体判断しているわけですから、直接、投票という言葉を出して投票しないようにと、あるいは投票するように言わなくたってこれの対象になるわけです。

 そうしますと、例えば教育者が自分の研究成果を生徒、あるいは講演の場所で発表する、今度の改正案は現在の憲法の理念にこの点が少し合わないんじゃないかというふうな意見を表明する、こういうものも全部入ることに条文上はなりますね。余りにも無限定、包括的過ぎる。それには入りませんという保証を私は今求めているんじゃなくて、条文上からいえばそういうのも全部無限定ですから、包括的ですから、入りますね、この点どうですか。

    〔委員長退席、愛知委員長代理着席〕

船田議員 今、公務員や教育者の地位利用ということについてあいまいな部分が相当あるんではないか、こういう御指摘でございました。

 ただ、地位利用というものを、これは公職選挙法の解釈や運用等を参考にしますと、こういう定義ができるんだと思います。公務員等がその公務員等としての地位にあるがために、特に国民投票運動を効果的に行い得るような影響力、または便益を利用する意味であり、職務上の地位と国民投票運動の行為が結びついている場合をいうというふうに解釈できる、あるいは定義づけられると思いますが、これでもなかなか難しい問題だと思っております。

 先ほど教育者の地位利用というところで、いろいろな論文を発表する、あるいは学会で物事を発表するときに、憲法の問題について、これについては賛成である、あるいは反対である、あるいは学校の実際の授業の中でそういう意見を表明することがどうかということですが、私は、意見の表明そのものについては地位利用には当たらないというふうに一般的に解釈されるのではないかと思います。

 地位利用というのは、あくまで教育者という立場にあって、なおかつその教育者としてでなければ行使し得ないような影響力で学生あるいはその親、そういったものに影響を与える場合ということに限定すれば、私は相当整理できるんじゃないかというふうには感じております。

筒井委員 教育者として、授業の場所、あるいは先生としての講演の場所で話すのは地位利用に当たる、こういう解釈は可能で、それが当たらないんだという限定はこの条項ではないですねという質問なんです。今、そちらの方がどう解釈するかということを聞いているんじゃないんです。聞いたって、実をいいますと、失礼ですが余り意味がないんです。この条文上はそういうことに対する限定はつけていませんねという質問なんです。

船田議員 確かに、条文上はそこまで読み取れるような状況になっておりません。先ほど私が申し上げましたのは、立法者の意思として、あるいは意図として、そういうことは整理していきたい、こういう考えを述べたわけでありますが、条文上、それを明確に区分けするという状況にないことは事実でございます。そのあたりは今後の話し合い等によりまして、それがどこまで書き込めるのか、そういう部分での修正ということも、当然これは議論の対象になると思っております。

筒井委員 修正ということを言われましたが、実際に修正案をここへ出してきたのなら今のこの案について質問しないんですけれども、論議したけれどもやはり修正しませんなんと言われたら意味がないわけです。それから、国民投票運動に関しても、先ほど言いましたように、投票するよう、しないようといったところで、黙示の場合だって含めて考えられるわけですから。

 どっちにしても、これは罰する対象の条文として余りに広過ぎて、もう完全にやめるべきじゃないですか。両方とも物すごい強い限定をつけるべきじゃないですか。

葉梨議員 ちょっと補足的に与党案を御説明申し上げたいんですけれども、公職選挙法において選挙運動というものについての定義がないということは筒井委員も御存じのとおりだと思います。選挙運動というのは、ある人間に当選を得、あるいは得せしめないという目的の行為一般を指します。したがいまして、選挙運動というのは、単に投票をしてくれ、あるいは投票をしないでくれというような依頼の行為以外に、一般的な売名行為、つまり、葉梨康弘あるいは筒井信隆、そういう名前を立候補を表明した後に連呼するような行為も選挙運動に当たってくるわけなんです。

 ところが、この国民投票法案においては、百二条で、国民投票運動を「憲法改正案に対し賛成又は反対の投票をし又はしないよう勧誘する行為」という形で定義をつけているということがやはり大きな違いであろうかと思います。したがいまして、先ほど船田委員からも申し上げましたように、単なる意見表明はそもそもこういうような形での国民投票運動には当たらない。やはり、地位を利用するというのであれば、地位を利用してこれを勧誘するというようなことが必要であるということになろうかと思います。

筒井委員 日本の公職選挙法は世界的にも規制が余りにも強過ぎると言われているもので、それを基準にしてそれよりはいいんだと言ったところで、憲法の国民投票法案としては正当化の理由にならないですよ、全然。

 今、意見表明はいいんだというふうに言われました。意見表明は要するに国民投票運動に入らないということですね。それから、授業とか何かでそういう意見表明をすることは地位利用に入らないんですね、立法趣旨として、立法者の意思として。そうなんですか。

船田議員 授業等で教師が自分の考えを述べること自体は地位利用には当たらないというふうに解釈されます。意見表明権の延長である、このように感じております。

筒井委員 それらの限定、既に今はっきりしているわけだったら、それを条文にはっきり書いた方がいいことは、これもまたはっきりしていますね。

保岡議員 先ほどから申し上げているように、国民投票運動の定義とか地位利用の定義というのは、一応、公職選挙法における判例などの解釈という形で明確にされているわけですね。それを基準に、その判例を引き写してここに条文化するというんじゃなくて、それと比較しながら、例えば、選挙運動と国民投票運動とはここが違いますということで、はっきり勧誘行為だけに限定するとか、それから地位利用については公職選挙法と同じ定義でいいからここには限定していないとか、そういう立法作業をしているわけです。

 ただ、極めて悪質な職権濫用というようなものになれば、これは放置していいかどうかという問題があるのでさらに精査してみたいと思いますけれども、できるだけ公務員の地位利用等において弊害がない、あるいは、それは公務員の良識、あるいは国民やいろいろなマスコミやいろいろなものの批判の中で淘汰されていくものだという考え方もないわけじゃないと思いますので、今後よく検討してみたいと思っております。

筒井委員 公職選挙法については判例があるというのは、全くこれも理由にならないので、そっちの方の判例も変わり得るわけでして、しかも、公職選挙法、そういう選挙と国民投票法は全然違うわけですから、こっちの方で、今重要な問題であるその点について立法者の意思がはっきりしているならばそれをはっきり条文に書くべきじゃないですか、こういう質問なんです。

保岡議員 地位利用については、判例法上確立した定義があるならば、この言葉をそのまま法文上使ってもいいんじゃないでしょうか。また、従来の法文上使われている言葉にかえて、限定するようなところは限定する趣旨を明確に法文上で明らかにすれば足りると。判例の基準をそのままこちらに引き写しても、そのことで何か範囲が特別に限定されることにはつながらないんじゃないかと思います。

筒井委員 ちょっと失礼ですが、最後の。

 いや、判例の今の限定を引き写せと言っているんじゃないんですよ。独自にこの国民投票法案について立法者の意思があるんだという先ほどからの説明でしたから、もうその点がはっきりしているんだったら条項に明確に書くべきではないかという質問なんです。今の答弁は、書かれるということですね。

船田議員 地位利用の……(筒井委員「地位利用と国民投票運動」と呼ぶ)はい。地位利用、国民投票運動、それの具体的な条文としては、勧誘行為というものをきちんと述べて、そしてそれが地位利用に当たる、こういうふうに既に書いてありますので、それを適用すれば大体の定義というものが決まっていくのではないかというふうには思います。

 ただし、今筒井先生が御指摘のような、判例も含めた、あるいは確立された判例に近いものについては、今後私どもとしても、これからの議論によって、地位利用という私どもの定義があいまいであるということであれば、修正をするということはやぶさかではございません。

 また、本来、この地位利用ということを法律で禁止するかどうかということも含めて、根っこの議論としても私どもはなおこれは検討して、例えば公務員法によってこの問題を解決する、あるいは一般の刑事法によってこの問題を担保するということになってもいいのではないかということもそろそろ考え出しておりますので、そういう点では、私どもとしては十分に聞く耳を持ちながら対応していきたいと思っております。

筒井委員 そろそろ考えていくという……。

 これは、公務員等、教育者に限定して地位利用を禁止して罰することにした理由はどこにありますか。

船田議員 ちょっと、今の趣旨がよくわからなかったので、もう一度お願いします。

筒井委員 地位利用による国民投票運動の禁止をしているのは公務員等と教育者についてですね。それに限定して対象にした理由です。なぜその二つを対象にして禁止したかということです。

船田議員 公務員等、教育者は、その地位を利用することによって、投票人の意思決定に対して他の一般国民ではなし得ない不当な影響を及ぼすおそれがある、こういうことでございます。

筒井委員 本会議でも提出者はそういうふうに説明されたようですが、そういう影響力は、この公務員等や教育者以外でも与えることはできるでしょう。ほかはそういう影響力を与えることはできないという判断で、この二つに限定したのですか。

保岡議員 ほかにも事実上はいろいろ影響力行使のできる立場の方は民間にもあり得ると思います。しかし、それはいろいろなケースがあって多様であって、それを一つ一つ取り上げて規制をかけて罰則を付するというよりも、むしろ類型的に、今船田委員から言われたように、一般の国民と違った影響力を行使できるというもので、この公務員並びに教育者の地位利用というものを規制しているということでございます。

筒井委員 公務員に関しては、これは地方公共団体あるいは国家に雇われている公務員ではっきりしているんですが、教育者だと私立学校も入りますね、民間も。民間も入るとすると、では今度は民間の大企業の経営者、雇用主、これらはそういう影響を与える力はもっと強いんじゃないかとか、いろいろな問題点が出てくるんですよ。では、そっちを対象にしないで何でこっちだけ対象にしたんだ。この点、ちょっと質問時間が終わっちゃったので、最後に答えてください。

船田議員 教育者の場合には、公務員の教育者であれ、あるいは私立学校の教育者であれ、やはり子供たちを対象としているということと、その子供たちの保護者に対する影響力というものはやはりはかり知れないものがある、このように私どもは考えたわけであります。したがって、教育者一般ということで、公務員であれ私学であれ、それは一くくりで考えるべきであろう、こう判断をしたわけであります。

 もちろん、今御指摘のように、では私学の教育者がそうであれば一般の雇用主、上司の影響はどうかということでございますが、そこまで広げますと、今保岡委員からも御指摘いただいたように、もう本当にその分野が際限なく広がってしまう、このようなことを懸念いたしますので、そこはやはり常識的に教育者というくくりで一つの枠をつくるべきではないか、こう考えた次第であります。

筒井委員 教育者は切ったらどうですか、やめたらという意見だけ言って、終わります。

愛知委員長代理 次に、大口善徳君。

大口委員 公明党の大口善徳でございます。

 まず、国民投票の運動規制の中で、選挙運動とそれから国民投票運動ですね、これに対して、どう違うという認識を持っておられるのか。そしてそこから国民投票運動の規制の考え方、これもやはり選挙運動とは違うんだろう。まずその基本についてお伺いしたいと思います。

赤松(正)議員 選挙運動と国民投票運動の違いについて、そして、そこから出てくるところの規制についての原則的な考え方はどういうことかという大口委員の御質問です。

 選挙運動は人を選ぶ、政党を選ぶ、こういう選挙と、それから国民投票運動の場合は国家の基本的なありようというものを選択するということでございますので、この二つの運動の性格には今申し上げたように大きな違いがまずあると思います。

 そういう上において、国民投票運動の方は、主権者である国民の政治的意思の表明そのものでありますので、国民一人一人が自由闊達に萎縮することなく意見を表明する、闘わせるということが必要であると考えております。したがって、国民投票運動については原則自由で、規制はあくまで投票が公正に行われるための必要最小限のものにとどめておきたい、そんなふうな考えで立案をした、こういうことでございます。

大口委員 そういうことからいきますと、公選法と国民投票法をパラレルに考えるというのは私はいかがなものかなと。やはり、国民投票は国民投票法の中でその運動というもののあり方を考えていくべきではないかと思います。

 そういう点で、与党案の百一条に、表現の自由、学問の自由、政治活動の自由、その他日本国憲法の保障する国民の自由と権利を不当に侵害しないように留意しなきゃいけない、当たり前の規定だと言う方もいらっしゃいますけれども、非常にこれがしっかりと保障されなければならない、こういうふうに考えるわけであります。

 そういう中で、特定公務員の範囲につきまして、与党案と野党案で違うわけであります。

 私は、やはり特定公務員の範囲も限定をすべきであると。そういうことからいきますと、投票事務の関係者あるいは中央選挙管理会の委員等、これに限るべきではないか。裁判官、検察官、公安委員会の委員、警察官、こういう人に対する規制というものは、この規制というのが投票の公正を図っていくものだということからいきますと、投票の公正に対して具体的に危険性がある場合に限るべきじゃないか。そういうことからいきますと、この裁判官以下警察官までを対象にするのはいかがなものか、こう思うわけです。

 一方で、会計検査官、収税官吏それから徴税吏員、こういうものも公選法上は規制の対象になっているわけですが、これは外しているわけですね。人によっては警察官よりも徴税官吏の方が怖いというような方もいらっしゃるわけでありますから、ここに区別をするのもいかがなものかな、こういうふうに思うわけでございます。

 この点につきましては船田先生も、性善説に立つことも考えなきゃな、こうおっしゃっておりましたけれども、私の疑問点といいますか、特に運動主体の制限のない国が、皆さんが視察されたイタリア、デンマーク、エストニア、オーストリア、スロバキア、スイス、ポーランドでは制限がない、こういうこともありますので、この辺についてのお考えをお伺いしたいと思います。

赤松(正)議員 今、大口委員御指摘の、中央選挙管理会の委員等はいいけれども、それ以外、裁判官以下については禁止の対象に入れるべきではないんじゃないのか、あるいはまた、会計検査官や収税官吏等は外しているけれども中には怖い人もいるという話でございましたけれども、まず基本的には、ほかの一般国民ではおよそなし得ないというか、大きな影響をもたらす存在としての裁判官、検察官、公安委員会の委員、警察官、こういう位置づけをしているということだと考えております。

 会計検査官や収税官吏、徴税吏員というのは、国のありようというものを決める今回の国民投票法といった場合、直接の関係性が弱い。それに対して裁判官とか検察官等につきましては、先ほど挙げられた分については、より国の基本的なありようというものに関して影響力の強い存在、こういうことから挙げているわけでございまして、投票が公正に行われるための必要最小限の規制としての国民投票運動を禁止する、こういうことの位置づけをしたわけでございます。

 海外等の実例を挙げての御質問でしたので、そのくだりは保岡先生にお願いします。

保岡議員 昨年とことし、直接視察した諸外国というのは、オーストリア、スロバキア、スイス、スペイン、フランス、ポーランド、イタリア、デンマーク、エストニアの九カ国で、先ほど先生も言われたように、これらの国のうちで公務員の国民投票運動を禁止しているとの説明を受けた国としてはスペインとフランス。

 しかも、スペインにおいては、現職の軍人、警察官、判事、検事及び選挙管理委員の国民投票運動は禁止されているとの説明を受けた。これは日本の与党の提案に少し近いものでございます。それからフランスにおいては、公務員による投票用紙や政見発表書等の配布が禁止されているとの説明を受けました。これはちょっと我々の規制とは異質の規制ではないかと思います。

 昨年、本年、直接視察した諸外国のうちで、御指摘のような公務員の地位利用による国民投票運動を規制している例は他に見当たらない。

 ただ、昨年スペインを訪問した際、フンコ政治憲法研究所長からちょうだいした、欧州評議会の独立の諮問機関であるベニス委員会の報告書によりますと、アルメニアにおいては公務員の投票運動の禁止はその権限を用いる場合に限定されているようである。地位利用みたいなものかなとは思いますが。ただ、裁判官、警察官、軍人については投票運動が絶対に禁止されている。これは、先ほど来与党の提案にあるような理由が基礎になっているのではないかと思っております。

大口委員 それから、公務員、教育者の地位の利用について、今アルメニアという話もされましたが、これについては一つは船田先生も前回の答弁で、要するに、大学の先生が例えば憲法改正に賛成しないと単位を上げないとかいうことがありました。あるいは、例えば生活保護で公務員が生活保護についても厳しくやるよ、こう言うようなこと。あるいは補助金をもう打ち切るよと。

 こういうような職務権限に関してやる場合は、公務員がその職権を濫用して人に義務のないことを行わせ、または権利の行使を妨害したとき、こういう場合は刑法の公務員職権濫用罪に当たるわけですね。ですから、非常に悪質なものはこういうふうになってきます。これは百九十三条です。また、私立学校の場合は二百二十三条の強要罪とか、悪質なものについてはこういう形の規制があるということとともに、また、公務員、教育者の地位の利用について、公職選挙法上の判例は事例があるんですけれども、国民投票法における解釈と公選法における公務員、教育者の地位の解釈が本当に同じでいいのか、私はこれもあると思うんですね。

 そういうことからいきますと、本当に、どういう場合に投票の公正が侵害されるのかということでもっと限定をすべきではないかな、こういうふうに思うわけでございます。

 そして、私はまた、公務の中立性とか、こういうことについては国民投票法で規制するものではないんじゃないかなと考えるんですが、いかがでございましょうか。

船田議員 お答えいたします。何度も私の名前を挙げていただき、ありがとうございます。

 私どもは、特定公務員の運動禁止、一般公務員、それから教育者の地位利用による運動の禁止ということで書きました。これは、いわゆる公務員法による政治的中立性確保という観点とは別でございまして、あくまでこれは投票の公正さを担保するために、このような運動禁止あるいは地位利用による運動禁止という取り決めを考えたわけでございます。

 しかしながら、今、大口先生御指摘のように、いわゆる公務員法、それから一般の刑法で処罰できる部分というのは当然あると思っております。もちろん、公務員の政治的中立性を確保するために公務員法というのはありますから、やはり法の趣旨がちょっと違っておりますので、そのあたりは少し整理をしなければいけないと思いますが、実務上というか実態上、地位利用というものは限定することがなかなか難しい、あるいは、このことがさらに国民運動を萎縮するということにつながるとすれば、公務員法によって対応する。国民投票運動の体系ではなくて、公務員法や一般刑法の分野である意味の規制を行うということも、これは法的には考えられると思っております。

 ただ、公務員法を適用いたしますと、国家公務員法と地方公務員法では実は少しずつ内容が違っているということがございまして、例えば国家公務員法におきましては国民投票そのものというのは政治的な行為には該当しない、こうなりますし、逆に地方公務員法においては公の投票も政治行為であるというふうに規定されちゃっておりますので、国民投票もその字面からすれば公の投票ということで政治的な行為として認定されちゃう、こういうことになります。公務員法を適用する場合の問題点、これはばらつきがある、こういうことでございますので、このあたりはやはりきちんと調整をしなければいかぬというふうに思っております。

大口委員 次に、組織的多数人買収罪につきまして、事後買収を外すとか、かなり今回与党の案でそういう配慮はしているわけでありますけれども、例えば、影響を与えるに足りる金銭とか物品ですとか財産上の利益とか、影響を与えるに足りるということに非常に解釈の幅があるというような構成要件上の問題もあるのではないかな、こう思っております。この構成要件をかなり厳格に限定した、こういうことについての御説明。

 それから、民主党に対して、枝野先生も、十億使ったりというような場合とか、投票の公正さへの信頼が揺らぐ場合もあるので、買収罪について検討はされるのではないかなと。ただ、どう書くかということでしょうが。ただ、スイス、スペイン、デンマーク、オーストリアでもこういう買収罪というのはあるわけでありまして、そこら辺についての御見解をお伺いして、私の質問とさせていただきます。

葉梨議員 お答えをいたします。

 公職選挙法を、このまま罰則を引き写したということではないということは最前から私どもの答弁者は申し上げているわけなんですけれども、実際のところを言いますと、公選法の買収罪に関する規定というのは相当広いものがあって、当選を得または得さしめない目的をもって選挙人または選挙運動者に対して財産上の利益を供与する、これが構成要件になります。そしてさらには、選挙運動者に対する報酬も買収罪の適用になるし、また今、大口委員からもお話がありましたとおり、事後買収、そういったものも買収罪の要件になる。

 基本的に、最近の例からいいますと、運動買収という形で検挙事例がある例が多いというふうに承知しているんです。さすがに票を買うという行為での買収罪の摘発というのは大分減ってきているようなんですけれども、さはさりながら、国民投票運動というものの構成を考えたときに、本当にコアの部分となります票を組織的に買うような行為、これについてはやはり構成要件を厳格にして、罰則でもって担保することが必要じゃないかというふうに考えています。

 そこで、与党案ですと、まず指揮命令系統などの組織性、それから、多数人に対して、しかもそれは投票人に対してですから投票買収。そして、それは反対または賛成という勧誘行為の対価としての、それに財産上の利益があると言うに足りるような、そういったようなものの利益を供与するという形になっています。

 そして、先ほど船田委員から申し上げましたように、この財産的利益というのについて、さらに流通性あるいは財貨性、そういったものをどういうふうに持たせるか、あるいは、これは解釈でいくのか立法措置でいくのか、そこら辺のところは検討しているということですけれども、少なくとも相当厳格な構成要件による縛りがかかっているということは御理解を願いたいと思います。

鈴木(克)議員 それでは、私の方から御答弁させていただきます。

 我々も、一票をお金で買うような行為が国民投票において許されるものではないというのは十分考えておるわけであります。しかし、国民投票運動と政治的意見の表明との区別が明確にできない、主権者たる国民の政治的意見の表明の機会を最大限保障しつつ本当に悪質なケースだけを対象とする構成要件を設けることは困難であるというふうに現時点では考えておるわけであります。

 一方で、国民投票においては一億の国民が投票権者であり、その過半数を得なければ買収が意味を持たない、そのような買収を秘密裏に進めるということは非常に困難である、明るみに出れば社会的に十分な制裁を受ける、このように考えております。また、個人の当落を争う選挙とは異なって、国民投票においては個人的利害から買収行為へつながる危険性というのはそれほど高くないのではないかな、このようなことも考えております。したがって、自由闊達な議論を萎縮させるリスクをも勘案すると、仮に対価性が明らかなケースであったとしても、メディアを初めとする言論による淘汰によりやっていくべきである、このように実は考えております。

 最後に、こうした判断に基づいて、公選法の買収罪や、与党案の組織的多数人の買収罪の規定について、さらに要件を限定し、自由な国民投票運動に対する萎縮効果を与えるとの懸念が払拭され、かつ、最も悪質な行為のみを対象とするアイデアがあるならば検討の余地はないではない、このように現段階では考えておりますが、我々の党の案の方がすぐれておるのではないのかな、このように考えておるところであります。

大口委員 以上で終わります。ありがとうございました。

愛知委員長代理 次に、笠井亮君。

笠井委員 日本共産党の笠井亮です。

 幾つか質問したいと思いますが、まず、先ほども船田委員から、午前中の議論も踏まえて、改憲議論が高まっていくと手続法も有利な方向にという話になるので、静かに共通のルールをつくるのは今が適切ではないかというお話がありました。

 私は、安倍総理が先月三十一日、ついこの間ですけれども、アメリカ、イギリスのメディアのインタビューに答えて、自民党総裁としての自分の任期は三年で二期までしか務められない、任期中に憲法改正を目指したいということで、具体的に改憲スケジュールも初めて踏み込んで言及されました。その上で、時代にそぐわない条文として典型的なのは憲法九条だということで、改正すべきだというふうに強調されたということなんですけれども、私は、この主張こそ時代に沿わないというふうに思っています。

 所信表明では、憲法改正の方向とあわせて、「まずは、日本国憲法の改正手続に関する法律案の早期成立を期待します。」とまで言われたわけで、それとあわせますと、今回の法案というのがやはり、私も指摘してきましたけれども、九条改憲のための条件づくりにほかならないんじゃないかということで、ある意味、去年の段階とも、もう局面が新たなところに来ているというふうに思うんですけれども、いよいよこの公正中立、静かにというどころか、一方ではもう自民党総裁、総理がそういう方向で具体的に言われている中で、改憲案を通すためにその手続法をつくって、国民投票運動も可能な限り、規制がどこまでできるということになっていくのではないかと思うんですけれども、この点での見解を伺いたいと思います。

 そして、関連して、同じテーマなんですが、民主党の枝野議員に。

 この間、この問題もいろいろ議論してきました。そして、枝野さんも、具体的な改憲案というものの議論が熱くならない段階でできるだけそれとは切り離す必要がある、これ以上各党の憲法に関する議論が具体化し過ぎた段階ではやはり具体的になってきている自分たちの考え方をどうやって通そうかということの方が前に出てしまう、今ならばぎりぎり間に合うタイミングというかむしろ遅きに失しているではないかというふうに言われました。

 私は、もはや間に合わないタイミングではないかというふうに思うんですけれども、その点についての認識はいかがでしょうか。お二人に伺います。

船田議員 笠井議員にお答えいたします。

 安倍総理が自民党の総裁選挙中にも憲法改正の必要性は唱えられました。また、最近、外国のメディアに対しても、御自分の任期が三年プラス三年ということで長くは六年の中で改正の具体的な結果が得られるように、そういうお話もされた。私は、これは一つの見識としてとらえるべきだろうというふうに思っております。

 また、第九条云々というところで、ここが一番の改正のポイントである、こういうお話もされましたが、私もそこは一つのポイントでありますが、そればかりではなくて、国民の権利義務の分野や、あるいは憲法裁判所をどうするかとか、あるいは総理大臣の権限がどうなんだ、そういった統治機構にかかわる問題についてもなおいろいろと議論したい、こういうふうに思っております。

 ただ、それと、今回の憲法改正のための、あるいは憲法改正するかしないかも含めた、国民の主権を行使するという点での手続法の整備というものとあわせて考えるのではなくて、やはりそれぞれに区別して議論し、また考えていただきたいと思っております。

 あえて一緒にするということ自体が、何かそこからまた新たな恣意的な世論をつくり出すのではないか、こう我々は思っておりますので、そこは、今までもそうでしたし、これからのこの委員会での議論も、そういう憲法の具体的な中身の議論、あるいはそれを実現させるためにより有利な手続法はどういうものか、そういった議論は私どもは一切するつもりがございませんので、ぜひそのあたりは私どもを信用していただきたい、これが一つございます。

枝野議員 御指摘のとおり、遅きに失したんだと思います。タイミングとしてはもうちょっと早かった方がよかったんだと思います。ただ、だからといって、遅くなればなるほど、憲法のどこをどう変えたいとか変えたくないとかということがより具体化をしていくわけですから、後になるほどより悪くなるわけですので、できるだけ早い方がいいだろうということに論理的にはなると思います。

 その上で、近い将来なのか遠い将来なのか、今議論している手続法に基づいて憲法が変わったときに、いや、改憲派に有利な手続だからこの憲法はだめだよねという声を少しでも小さくするために、良識、見識のある人だったら余計なことは言わない。だから、だれかさんは良識ないな、憲法をおもちゃにしているなと私は思っております。

 ただ、両党の法案とも、内閣総理大臣、何の権限もない人ですから、ざれごとを勝手に言っていてください、こういう話なんですね。彼は自民党総裁でいらっしゃいますが、自民党総裁について、総裁としての立場で国会で答弁してくださいと我々いつも迫っても、内閣総理大臣になってしまうと、自民党総裁であっても総裁としての御答弁をされないわけなんで、つまり、内閣総理大臣は内閣の立場でしか物をおっしゃらない。内閣は憲法改正について何の権限もない。何の権限もない部外者が勝手なことを言っているだけですから、ほっておけばいいんじゃないでしょうか。

    〔愛知委員長代理退席、委員長着席〕

笠井委員 今御答弁ありまして、総理の見識だと船田さんは言われましたが、私は総理の不見識だと思っておりまして、むしろ、こちらが合わせてくっつけているんじゃなくて、合わせてくっつけられているのは総理・総裁であって、信用してと言われても、これはちょっとそうはいかないという話じゃないかな。それで、ざれごとということで済まされない。やはり自民党の総裁ですから、実際に新憲法草案も出されながら、こういう形で今回の法案についても公明党と一緒に案を出されているということですので、そこは通用しない話なのかというふうに私は思っております。

 そこで、具体的な問題ですが、公務員等及び教育者の地位利用による国民投票運動規制についてですけれども、与党提出者に伺いたいと思います。六月一日の本会議で、斉藤提出者が、具体的に禁止される行為というのは許可、認可の権限を有する公務員が関係者に対してその権限に基づく影響力を利用することということで、余り具体的でないあいまいな答弁をされました。

 ところが、きょうの午前の小委員の懇談会では、日弁連の参考人から、地位利用という規定はいろいろな場面が考えられるということで、提出者が言われるような限定が可能だという答弁はされなかったと思います。現に、公務員の政治活動に対する制限というのは、許可、認可の権限を持っているかどうかにかかわりなく、公務員であればすべからくその地位を利用したということで、猿払事件でも不当に有罪になっているのが現実であります。

 きょうも午前中ありましたが、堀越事件など同様な事件が起きているもとで、捜査当局による濫用が起こらないという保証が一体どこにあるのかということについて、与党提出者に伺いたいと思います。

船田議員 地位を利用してという定義といいますと、我々、今回の法案のもととして考えましたのは、やはりどうしても公職選挙法の規定というものをある意味では準用せざるを得ない、こういうことでございまして、その公選法の解釈とか運用ということを参考にすれば地位利用というものの定義が出てまいりますし、また、その判例というのも公選法の規定によってある程度これは出てくるというふうに思っております。

 ですから、これはそのまま適用というわけではありませんけれども、しかし、公務員、教育者の地位利用による国民投票運動の禁止ということについては、一定の私は限定といいましょうか、そういったものが可能である。先ほど笠井委員御指摘のように、許可、認可の権限を有する公務員が関係者に対しその権限に基づく影響力を利用するということ、それから、教育の分野においては、教育者が児童を通じて間接的にその保護者に働きかける場合とか、その児童に対する教育者としての地位を利用して直接に保護者に働きかける場合ということで、これは判例の上でもかなり限定して話ができることではないか、こう理解をしております。

笠井委員 今の答弁を伺っても、何の限定にもならないというふうに思うんですよ。それで、一たんつくられたらやはりひとり歩きするわけで、しかも捜査当局による濫用の例というのは枚挙にいとまがありません。まさに何の担保もないということだと思うんです。

 もう一点、今言われた教育者のことについてなんですけれども、先ほども船田委員が答弁されて、教育者が児童を通じて間接的にその保護者に働きかける場合とか、児童に対する教育者としての地位を利用して直接に保護者に働きかけるという場合などが禁止される行為だと。これまた私は非常に抽象的であいまいなお答えではないかと思うんです。

 では、具体的にどういう場面なのかということで、ちょっと想定してというか伺いたいんですが、例えば、教育者が児童を通じて間接的にその保護者に働きかける場合ということについていいますと、学校で児童生徒の側から、国民投票をやっているということで想定しますと、先生は賛成、反対どっちなのというふうに聞かれますね。そう問われて、意見表明権で、例えば、私は反対だよと言うわけです。そうしますと、児童生徒は、家に帰りまして、学校ではうちの担任の先生が反対だって、こう言うわけです。それで保護者に言ったとすると、保護者の受けとめがどうなるかということですが、教育者が自分の子供を通じて保護者に働きかけたのではないか、勧誘したのではないかというふうに受けとめて、そして警察に通報するということもあり得ると思います。

 また、児童に対する教育者としての地位を利用して、直接に保護者に働きかける場合についていいますと、先ほども保護者会というお話がありました。保護者会で、懇談の場で、憲法改正国民投票ということがやられていると当然あらゆる場面でいろいろな話題になります。そこで、保護者の中から、ところで先生はどちらに入れられますか、反対ですか賛成ですかと問われた場合に、意見表明権で、私としては反対です、そちらに入れますよというふうに答えたときに、受けとめ方によっては、それを教育者が直接に保護者に勧誘をした、勧誘された、あるいは働きかけられたと受けとめた保護者が警察に通報するということだってあり得るわけですが、こういう場合というのがいっぱい出てくると思うんですよ。これは、本当にあいまいな、抽象的なことでは済まされない場面がいっぱい出てくるわけですが、こういうことについてはどうなりますでしょうか。

保岡議員 今先生が挙げられたような場合は、全く我々の判断からしてもならないケース、単なる意見の表明。それは、児童生徒がどう報告しようが、受けとめ方、保護者がどうあろうとも、投票するしないだけじゃなくて、その理由を仮に述べたとしても、それはこの地位利用には当たらないと私は思います。

笠井委員 だけれども、保護者の中でそう受けとめて警察に通報するわけですね。そうすると、そのシチュエーションということがまたいろいろ問題になってくると思いますが、やはりその場面、場面というのは非常に微妙な問題があります。

 意見表明、単純にそういうつもりだったかもしれないし、だけれども、いや、それを超えていると私は受けとめて警察に言ったんですということだって出てくる。そうすると、これはいっぱいこういうことがあったら一体どうなるのかということなんですよ、規制をするということになりますと。だから、私は何の担保もないというふうに思うんです。むしろ、そういうことによって、自由な意見表明すらできない、萎縮効果を生むだけじゃないかと思うんですよ。

 大学でも、教育者は学生から問われても物が言えなくなるというふうになってくる。憲法に関する素朴な疑問、質問にも答えられないということでは、これは教育者の権威にかかわるということをある教授もおっしゃっていることを私も聞きましたけれども、実際、そういうことがいっぱい起こってくると思うんです。だから、規制するとなると、その辺の問題というのはやはりあいまいなことでは済まされないと思うんですけれども、どうですか。

葉梨議員 現実の、ちょっと公職選挙法の例を引きますけれども、いろいろな形で規制が公職選挙法はたくさんあるわけです。その規制にこれは当たるんじゃないか、当たらないんじゃないかというような苦情のたぐい、あるいは情報提供のたぐいというのは、現実の選挙になりますとたくさんございます、私自身も受け付けたことがございますけれども。

 それで、ただ、規制があって、そういうようないわゆる垂れ込み、この垂れ込みの中には、真実のものもあれば真実じゃないものも当然あるし、あるいは法律違反にならないものを法律違反だと称して来るようなものもあるわけですけれども、そういったものがたくさん来たからといって、じゃ、現実に警察がそれで動けるかといったら動けるはずもないわけなんです。ですから、その規制があるということとそういった通報が警察に行くということとは、また萎縮効果という点では全然別のものだということを御理解いただきたいと思うんです。

 そして、実際に、勧誘行為というのは、客観的にそういった勧誘行為があったかないかというのが立証できなければ、この場合は地位を利用しての勧誘行為、国民投票運動ということになりませんから、具体的にどのような文言があるかということをその情報提供者に対してもしっかり聞いていくわけです。本人が、先生があれで反対だと言っていた、これはこれに当たるんじゃないんですかと言うだけでは、それで萎縮効果をもたらすような取り締まりが行われるということはあり得ないことだと思います。

笠井委員 今、そういうのがいっぱい出てくる、選挙でもそうだと言われました。それで、そんなことで一々警察が動けるはずがないんだと言われましたが、それだったら、こういう規制は要らないじゃないですかということになりますよね。結局、残るのは萎縮効果ですよということになってしまうと、私はこれは実際にはいろいろなことが起こり得るし、むしろもたらすのは萎縮効果だと思います。ここはよく考えていただきたいと思います。

 枝野提出者に伺いたいと思うんですが、けさの小委員会懇談会で、自治労連の田中参考人から、国家公務員法の政治活動の規制について、国民投票運動の場面では適用除外であることを明記すべきとの意見があったことに対して、国家公務員法とそれに基づく人事院規則で禁止されている政治的行為とはみなされないという趣旨の発言をされて、法制局からも説明がありました。

 確かに、国家公務員も国民投票において、個人、組合、あるいは政治団体以外の団体として行動をする場合は規制の対象外になるんだと思うんです。ただ、問題は、国家公務員が思想、信条の自由に基づいて、国民投票に関する記事が掲載されている政党の機関紙やビラを配布した場合はどうなるのか。まさにここに堀越事件の論点があったわけですけれども、この点についてはいかがでしょうか。

枝野議員 私は、これから党としても、その修正案について検討しなきゃいけないわけなので、確定しているわけじゃないんですが、私は、少なくとも国民投票に限って言えば、今のようなケースを規制する必要は全くないだろうと思っています。

 つまり、公務の中立性というのが国家公務員法等の保護法益だと思うんですが、これは、憲法の国民投票についてはちょっと違うだろうと。

 なぜかといいますと、公務や公権力のもとになっているのが憲法であって、その憲法に基づいて公務員はその職務の中立性を守らなければならない、あるいは憲法を遵守しなきゃならない。ただ、国民投票の発議がなされたときには、その発議されたことについて変えるか変えないかということで、まさに、みずからが遵守すべき憲法秩序であったり、みずからのよって立つ公務の公権力の源泉であったりというところが変わっていくということですので、その部分においては、公務員であるということよりも、有権者、主権者であるということが優先をするんだというふうに思います。したがって、少なくとも国民投票については、投票の公正さを害しない行為については規制の対象に含める必要はない、私はそう考えていますので、そういう前提でどういうふうに修正したらいいのかという検討をしてみたいと思っています。

笠井委員 組織的多人数買収と利害誘導罪について与党提出者に伺いたいと思うんですが、地位利用もそうなんですが、国民投票運動は原則自由だといいながら、買収罪など罰則を科してまで運動を規制しているということなんですけれども、原則自由と罰則というのはどういうふうに両立するんでしょうか。

船田議員 今回の買収罪というのは、極めて悪質なものだけに限って処罰する、こういう大前提に立っておりまして、確かに、国民の皆さんが全く買収ということを考えずに、広くそして公正に運動していただく、あるいは投票していただくということを望んでおりますし、またそういう状況をつくれればそれにこしたことはないと思っております。

 だからこそ、制限はできるだけ少なくしたい、最低限にしたい、こういうことでこの全体の法体系が成っているわけでございますが、かといって、やはり、全く何の罰則もなく、いわゆる買収罪そのものもここに規定しないということになりますと、これは大変困った事態が万が一起こることも考えられるわけでありまして、私どもとしては、買収罪の要件を五つほどに限定をいたしまして、最も悪質な部分だけを抽出するということに腐心をしたところでございます。

 なお、それに加えまして、例えば、投票に影響を与えるに足る物品その他の利益というところも、これもまだあいまいな部分が残っていると思います。この点につきましては、先ほど来お話を申し上げておりますように、その物品の財貨性がどの程度あるべきなのか、それから流通性ですね、つまり、お金を払ってお店で買えるものか買えないものかというような限定や、あるいは国民投票運動の意見表明として通常使われているものとそうでないもの、こういう限定をもう少し我々は突っ込んで議論をし、規定をしていく必要があるのではないかなというふうに思っております。

 なお、この買収罪が全くない場合には、例えば、もう一方で無効訴訟の無効事由というものを我々考えておりまして、無効事由の足がかりとしては、この買収罪がない場合にはその足がかりがなくなってしまうということもありますので、それとの関連でもやはり最低限の買収罪というのは残しておくべきだと考えたわけです。

笠井委員 終わりますが、極めて悪質、最低限ということですが、私が伺っている限りでは、やはり、国民の運動を規制するというところに立法思想があるんだなというふうに受けとめざるを得ないということを申し上げて、質問を終わります。

中山委員長 次に、阿部知子君。

阿部(知)委員 社会民主党・市民連合の阿部知子です。

 私は、冒頭、教員の地位利用に基づく運動規制という形で与党の皆さんが御提案の件についてお尋ねを申し上げます。

 保岡先生に冒頭お願いしたいのですが、何回かの海外視察を通じて、まず、教職員のこうした地位利用による運動規制というようなことを取り上げていらっしゃる諸外国はあったのでしょうかというのが一点と、それから、もしもそこでなかったとするならば、あるいは少ないという中で、なぜ今回与党案ではそれを取り上げられたのかという背景、この二点についてお願いいたします。

保岡議員 海外視察で我々が意見交換をした場面では、またその他伺う機会において、教職員の地位利用を規制する例はなかったと思います。

 では、なぜそれを設けるようにしたかといいますと、先ほど来船田先生が御説明になっておりますが、要するに、その地位にある者がその影響力を行使して、そしてそれとの関係で、また与えられる便益性などとの関係で、投票に対する自由をゆがめるという類型的に考えられる要素じゃないかということを、公選法との関係で、同じような公選法の規定があるので、我々もそういう類型の一つとして取り上げましたが、ここは先ほどからずっと、午前中から議論してくる過程で多少おわかりいただけると思いますけれども、極端な権利濫用になるようなケースがあるのかどうかもう少しよく検討をして、こういう可罰性のある規制をこの国民投票運動規制の中に設ける必要があるのかどうかよく検討して、修正案の中にその検討の結果を取り入れていけるようにしたいと考えております。

阿部(知)委員 諸外国になくて、そして、我が国だけが教員の方がそういう地位利用をしてさまざまな運動を行うということを制限しなければいけないと、もし与党の方がお考えになるのであれば、やはり私は、それ自身が教育現場をどう見ているかということにもかかわって、そもそも問題が大きいと思います。

 保岡先生は今、考え直さなきゃいけない、公職選挙法並びでとりあえずは置いたけれども、本当にそういう事態があるのかどうかというふうにおっしゃいましたが、現状で与党がお出しになっている法案の中では、私がさっき意見陳述の中で述べさせていただきましたが、この間の公務員の運動制限の中でも、既に与党が挙げておられる、特定公務員の運動規制違反では六カ月以下の禁錮に対しまして、一般公務員では禁錮二年以下、教員は一年と、逆に特定公務員より重い罰則をかけねばいけない対象として教職員のこともみなしているわけですね。

 これ一つとっても、非常に教育現場が萎縮せざるを得ない枠組みをおとりになっていると私は思いますが、ここはなぜ、特定公務員が六カ月以下、そして一般公務員二年、教職員一年という量刑になっておるんでしょうか。

船田議員 特定公務員が運動をした場合は、これは地位の利用がなくても類型的に国民投票の公平さに対する疑義が生じるおそれがあります。したがって、これは主に投票の公平さにかかわる部分であるということでその罰則を規定いたしました。

 一般公務員や教育者の場合には、ただ運動するだけは構いませんけれども、特に、地位を利用して具体的に他者に対して働きかけをするという客観的な行為がある、そういう場合に罰則を科するということでございます。特定公務員だから、一般公務員だから重い、軽いということではなくて、一般公務員や教育者の場合には地位を利用したというもう一つの縛りがかかっているということで、特に重い状況にあるということでありますから六カ月ではなくて二年というふうに加重をした、こういう考えでございます。

阿部(知)委員 公務員の場合も教育者の場合も、地位利用という形で言われますと、先ほど来ほかの委員も御指摘のように、極めてあいまいさ、拡大解釈の余地が生まれてまいります。刑罰も厳しい。そして、その地位利用について何を地位利用とするか。諸外国では、何度も繰り返しますが、保岡先生もおっしゃったように、ないわけです。日本の教育者だけが、何か地位を利用して子供たちあるいはその親御さんたちによからぬ行動をするというふうにみなされているとしたら、やはりそれは教育現場というものにとって物すごく私はマイナスであろうし、一方、国会の中で教育再生をめぐって教育基本法の改正等々の論議がありますが、それ以前の問題が既に私はあるように思うのです。

 どういうことかというと、教育という場で、先ほどもちょっと申し上げましたが、必修科目の未履修という問題がクローズアップされております。果たして高校教育において、あるいは義務教育課程において、憲法を子供たちに教えるということは、これは当然憲法尊守の義務を負う国家公務員が、我々が生きるための憲法を子供たちにも伝えていくということにおいて極めて重要なことでありますが、この憲法教育というものはどのように現状担保されておるかというのが一点。

 そして、実はこの憲法はいいんだよ、すばらしいよ、平和で。そして、例えば憲法二十五条、基本的生存権の問題があるからこそ、困ったら生活保護をどうやって受給するか、セーフティーネットなんだよということ一つ話すにも、やはり現状の憲法ということをしっかり子供たちにわかってもらうというために先生方は努力しておられます。それが、場合によっては地位利用という形に受け取られかねないおそれを持ってしまうと私は思います。学校教育における憲法の教育はどのように担保されているかということであります。

 そして、三点目は、今、もしこのような状況下で、早いか遅いかには多少の御意見の差があるとしても、どういうものとして戦後この憲法体系というものが成り立ってきたかというふうな憲法についての十分な認識なくして国民投票法の是非が論じられるのであれば、それは国民にとってもすごく不幸だと思うのです。だって、九十六条だってそもそも憲法の中に国民主権をきちんと保障していくための条項でありますから、国民投票法についての論議そのものの土台に憲法ということがしっかりと伝わっていなければならないと思いますが、この点について、現状の認識を伺いたいと思います。

船田議員 憲法をどう学校教育で教えるかという点、これにつきましては、私も、実際のカリキュラムを現在持ち合わせているわけではありませんので詳しく答弁する立場にはないのですけれども、一般論として申し上げさせていただければ、小学校、中学校、高校それぞれの課程において、いわゆる社会科の中で教えてきている。

 ただ、これは最初から高度なものを教えるということではなくて、小学校ではごく基本的な部分、例えば、現行憲法におけるいわゆる三つの原則、そういったものを中心として、そのようなものがきちんと存在をしているということは、小学校段階で教えると思います。中学校でも同様であると思います。なお、高校になりますと多少やはり判断能力というものが子供たちにもついてくると思いますので、そういう中で、やはり今の憲法をどう思うか、あるいはどこをどう変えたらいいのか、変えてはいけないのか、そういったことについてのいわゆる討論とかディベート、そういったものを、特に高校でもやや進んだ高校においては取り入れているというところもございます。

 そういうものについて、私どもは、今回のこの国民投票法案を提出したからといって、そういう学校教育における憲法の議論を、例えばそれを抑えるとか、これは国民投票運動に当たるとか、そういうことは想定はしておりませんで、やはり学校教育の自主性と、それから子供たちの発達段階に応じた憲法教育というものは、これはきちんと今後とも保障していくべきである、このように思っております。

阿部(知)委員 与党の提案者の皆さんが想定しておられなくても、それによって、憲法について見解を述べたり、あるいは憲法の改正問題についてのいろいろな考えを述べたりすること自体は運動じゃないのだから規制には当たらないとおっしゃいますが、しかし、それは極めてグレーゾーンになってまいります。そして、もしもそういうことにおいて、憲法ということがしっかりと子供たちに渡されないとすると、私はむしろ問題が非常に大きくなると思いますので、ここで、いわゆる今回の直接の内容ではありませんが、一体、何歳から憲法改正国民投票法案の参加者になるかということとあわせて質疑を続けさせていただきたいと思います。

 与党案においては二十歳からとなってございます。民主党案においては十八歳で、民主党案の方の皆さんは、憲法改正国民投票だけでなく、国民投票一般を視野に入れた場合は十六歳以上でも可として、そういう考えもおありのようにお書きになっています。

 憲法というものは、例えば、一たん改正されました場合、その後の長きにわたって非常に影響を持つとなれば、なるべく多くその社会の重要な構成者である若い世代にも意見を聞くということは当然必要になってまいります。そもそも、与党はなぜ二十歳にされ、民主党は十八歳にされ、そして、それ以下の年齢での憲法の改正にかかわります若者たちの意識の形成のされ方についてどうお考えかということを、民主党と与党におのおのお願いいたします。

園田(康)議員 今、阿部議員からの御指摘、私もごもっともだと思っております。

 私ども民主党は、今の公選法の規定で言ういわゆる二十、成人年齢、投票権年齢というものを設定しているわけであります。やはりこの憲法改正国民投票法につきましては、憲法改正だけではなくて、国民的な諮問的国民投票課題を、国民の意思を明確にしていこうではないかというところからすれば、憲法の要請するところは、やはり一人でも多くの国民の民意、主権者である、あるいは憲法制定権者である民意の反映というものがやはりこの結果の中にしっかりと出てこなければいけないであろうというところからすれば、より幅広い国民層といいますか有権者というものが私どもはあってしかるべきであろうというところから、いわゆる一般の投票、公選法での投票権年齢に関しても、私どもは、今の国際レベルといいますか、先ほど教員に関してはほかの国では規制をかけているところはないということがありましたけれども、今度は逆に、ほかの先進国レベルで投票権年齢を十八歳に引き下げていないのは、実は残念ながら我が国という形で残されてしまっているというところからすれば、一刻も早く十八歳に年齢を引き下げるべきであろうというふうに私どもは考えていたわけであります。それが現実の課題として今かなっていないというところからすれば、せめてこの国民投票法に関しての投票権年齢に関しては十八歳に引き下げていこうと。

 例えば、先ほどちょっと触れていただきましたけれども、課題によっては、子どもの人権条約等々のそういった意見を、当事者である子供という形で定義してもいいんだろうと思いますけれども、それで、その方々の意見もしっかりとこの中に反映していくということであるならば、さらに限定的に、国会の議決によって十八歳から十六歳まで引き下げるということも可能にしてはどうかという形で御提案をさせていただいたところでございます。

保岡議員 憲法改正国民投票の場合も、選挙の投票も、これはともに国民主権の具体化という意味で共通の基盤に立っていると我々は考えています。

 しかし、今お話がありましたように、世界の現状を見ますと、多くの国々で十八歳が選挙権年齢であり、国民投票の資格を得る年齢でもある、同時にこれは成人年齢でもあるというのが世界標準でございます。

 したがって、我々は、十八歳に国民投票の適格年齢を引き下げるのであれば、それは民法とか刑法とかほかの法律で成人年齢というものがあって、いろいろルールが決まっておりますので、こういったことに大きな影響を与える法制でございますので、そこをよく検討しなきゃいけない。十八歳にする、引き下げる方向は正しいにしても、そこについてはよく検討した上で答えを出す必要がある、そういうふうに認識しているわけです。

 十六歳まで下げるということについては、これは国会の意思によって、その都度、案件によって決めるというのは、今私たちが申し上げたような成人年齢とあわせて資格を考えるという立場からすると少し、国会の決議だけでそういうことが制度として上下するというようなわけにはいかない。我々の立場からいえば、十六歳に下げることは全く念頭にない。

 これは、十八歳に成人年齢を下げる、憲法あるいは選挙権年齢を下げるということになりますと、民法、刑法、合わせるということになりますと、今度は教育に与える影響も非常に大きいというようなことで、本当に国民が緊張して若い方々の教育というものについて真剣に考える体制をまたそれによって進めるというような大きな社会的な影響も生まれる。これは非常に大きな、国の制度の根幹にかかわるところがありますので、よく検討して答えを出したいと思っております。

阿部(知)委員 私も、今の御答弁のように、国の制度の根幹にかかわることとは思っております。そして、そうであるからこそ、先ほど高校での憲法の教育はどうなっておるかということを伺いましたが、やはり、目指すべき方向性は、より多くの判断者をもってこの国民投票を成り立たせる。そこには高校時代における憲法教育の問題は避けて通れません。しかしながら、一方で、その現状について私は大変に危ぶむものでもございます。

 与党として、二十歳という年齢を十八までには恐らく譲歩することも少し御検討かもしれませんが、それ以上に検討していただきたいのは、高校での憲法教育問題で、安易に早くに国民投票法案ができることで、先ほど申しましたいわば萎縮とブレーキがかかりかねないことを大変に懸念いたします。懸念が懸念で済めばよろしゅうございますが、現状、非常に現場は混乱と萎縮をしておると私は思いますので、その辺もよく勘案していただいて、この国民投票のあり方ということをさらにお詰めいただきたいと思います。

 終わります。

中山委員長 糸川正晃君。

糸川委員 国民新党・無所属の会の糸川正晃でございます。

 先ほどの補足的発言に続きまして、また、その中でも発言させていただきました質問について質問させていただきたいと思います。

 まず、基本的な考え方につきまして確認をさせていただきたいと思うんですが、憲法に国民の声を反映させるためには、国民一人一人が自由に国民投票運動を行い、そして自由闊達な意見を闘わせることが必要だと先ほども申し上げた次第でございます。そのためには、国民投票運動は原則自由として、規制はあくまでも必要最小限にすべきでございます。

 そこで、再度の確認になりますが、国民投票運動の規制につきましての原則的な考え方を双方の提出者にお伺いさせていただきたいというふうに思います。

赤松(正)議員 先ほども他の委員に申し上げましたけれども、人を選ぶ選挙とそれから国家の基本的なあり方を選択する国民投票、こういう大きな違いがあるというふうにまず考えておりまして、国民投票運動は主権者である国民の政治的意思の表明そのものでありますので、国民一人一人が萎縮することなく自由濶達な意見を闘わせるということが必要だ。したがって、国民投票運動は原則自由として、規制はあくまでも投票が公正に行われるための必要最小限のものである、そんなふうに考えて立案をしたところでございます。

園田(康)議員 この点では、我が党民主党としても全く同じ意見でございます。

 ただ、原則自由という形からすれば、必要最小限度ということになると、その必要最小限度の規制がどこでとどまるのかというところが、やはりこの辺はきちっと議論をしておかなければいけないんであろうというふうに思っておるところでございまして、私どもは、あくまでも国民投票が中立公正に行われる、それを担保するためのいわゆる管理者といいますか、その選挙管理委員会の委員、そこに対してのみ規制がかかるものであって、そのほかは、公務員あるいは先ほど来課題となっております教育者についても、これは規制をかけることはしないという方向で考えさせていただいております。

糸川委員 次に、罰則の考え方について質問をさせていただきます。

 国民投票運動の自由というものを保障する上で特に重要なものが、罰則の規定をどのように整備するのかだというふうに考えております。与党案と民主党案におきましては、幾つかの点で罰則の有無につきまして相違があるように思います。その根本にある罰則についての基本的な考え方についてはどのようにお考えなのか、再度の確認の意味で双方の提出者にお伺いしたいと思います。

赤松(正)議員 先ほども言いましたけれども、国民投票運動は原則自由で、規制はあくまでも投票が公正に行われるための悪質かつ必要最小限、こういうふうな基準といいますか考え方ということに立っております。

 このような今申し上げた考え方に基づきまして、この法律案では、組織的多数人買収・利害誘導罪のほかに、職権濫用による国民投票の自由妨害罪など、投票の公正さを確保するための必要最小限度の罰則規定のみを設けることにした、こういうことでございます。

小川(淳)議員 同様でございまして、とにかく表現の自由、自由な運動、自由闊達な意見交換を根本的に保障していきたいということでございます。その意味で、国民のいろいろな運動、意見交換を萎縮させないという意味で必要最小限の罰則に限定をしているわけでございまして、今回の法律案の中では、職権濫用による国民投票の自由妨害罪など、投票の公正さを確保するための最小限のものに限定をしているということでございます。

糸川委員 なぜそういう発言をしたかといいますと、今、教育基本法の中でも、共産党さんから出されたものですけれども、タウンミーティングの際に、どうも政府の方から指示が飛んで、こういう発言をしてくれ、こういう質問をしてくれということが行われていたというようなことも指摘をされておるわけでございます。

 やはり、そういう、どこからか紙が流れたことによって一般の方の発言を統制するというようなやり方があってはならない、そういう確認の意味で今こういうことをお伝えしているわけで、ぜひ双方の提案者の方に、こういうことが絶対行われないように、そして、自由闊達なというのは、本当に一般の方が自由に発言をする場があるということですから、その辺は十分留意していただきたいなというふうに思います。

 次に、与党案では、裁判官、そして検察官、公安委員会の委員、警察官などの特定公務員の国民投票運動を禁止されておるわけでございますが、その理由はどのようなものなのか、与党の提出者にお伺いさせていただきます。

保岡議員 御案内のように、我々が提案している法案の百三条に特定公務員の国民投票運動の禁止の規定があって、御指摘のとおりであります。

 この中に決まっている中央選挙管理会の委員等というのは、これは選挙の手続が公正に行われること、その公正さに対する信頼というものを保護法益にして、それを守るために規定をしているとも言えます。また、裁判官や検察官、公安委員会の委員、警察官は、その職務の性格や強制力によって、投票人の意思決定に対し、他の一般公務員ではなし得ない大きな影響を及ぼすおそれのある職種ということで、やはり、これらの者が国民投票運動をすることを禁止しているということでございます。

糸川委員 一方、民主党案につきましては、裁判官等の特定公務員の国民投票運動を禁止しなかったわけでございまして、この理由は何なのか、また、特に中央選挙管理会の委員等の国民投票運動を禁止した理由はどのようなものなのか、民主党の提出者にお伺いしたいと思います。

鈴木(克)議員 おっしゃるとおり、私どもは、中央選挙管理会の委員等は国民投票事務に関係のある職種だということで、その方々がいわゆる運動をするということは、非常に公正さを欠き、そして重大な疑義が生ずる可能性があるということで、やはりその方々は運動を禁止した方がいいだろうと。

 しかし、先ほど来の裁判官、検察官、会計検査官、公安委員会、警察官、これらの方々は公職選挙法で選挙運動は禁止をされておるけれども、しかし、我々は、国民投票運動は禁止しない、このようにしたわけであります。先ほど来のお話のように、原則はなるべく規制をしないということでありますけれども、やはり、選挙に直接携わっておる中央選管の方々は規制をして、しかし、それ以外の方々については規制を極力しないという方向の中で、裁判官初めそういった方々は今回は外したということです。

 それはなぜかといえば、なるべく規制をかけない、最低のところだけにとどめていこう、こういうような考え方であるというふうに御理解いただきたいと思います。

糸川委員 では、与党案につきまして質問させていただきますが、公務員等の教育者の地位の利用によりまして国民投票運動を禁止した理由はどのようなものなのか。例えば、大学の憲法の授業で憲法改正案を批判する、こういうことは教育者の地位利用による国民投票運動に該当するのかどうか、与党の提出者にお伺いしたいというように思います。

船田議員 お答えいたします。

 公務員それから教育者は、これまでもお話し申し上げておりますように、その地位を利用することによって、投票人の意思決定に対し、他の一般公務員ではなし得ない不当な影響を及ぼすおそれがある、こういうことで、公選法にある地位の利用ということを準用いたしまして、一般公務員、教育者の国民投票運動の禁止ということを考えたわけであります。

 ただし、国民投票法案におきましては、具体的に他者への働きかけが客観的に行われているかどうかということを構成要件として限定するべきである、こういうことで、当然、公選法よりはかなり限定をした状況になっているということは御理解いただきたいと思います。

 ただ、今委員御指摘の大学の憲法の授業で教授が憲法改正案を批判する場合については、学術的に自分の考えを表明することは意見の表明そのものでございますので、今回の規制の対象になるということは考えられません。しかし、一方、このような批判や意見表明を超えまして、大学の授業中に教授が学生に対して積極的に賛成や反対の投票をするよう勧誘したような場合、つまり他者への客観的な働きかけ、こういったことを行ったような場合には、これはやはり地位を利用した国民投票運動に該当するもの、こう考えております。

糸川委員 では、民主党案におかれては公務員等の教育者の地位利用による国民投票運動を禁止しなかった、この理由について御説明いただけますでしょうか。

園田(康)議員 おっしゃるとおり、私どもは公務員等、教育者も含めて規制をかける規定は設けませんでした。

 今与党からもずっと御説明があったわけでありますけれども、しかしながら、本日の午前中の参考人の方々の御意見もそうでございましたけれども、残念ながら構成要件についてはまだ確定的というところが難しいのではないかという場面がございます。したがって、他者への働きかけという形で限定をされて置かれるということでございますので、今後その辺につきましては議論をさせていただきたいというふうに思っておるところでございます。

 現時点では、例えば教育者の範囲もまだ不明確なところもございますし、先ほど賛成か反対か投票を働きかけた場合というふうにおっしゃったわけでありますけれども、まず投票そのものの働きかけをすること、それに際して私は賛成であるということをその授業の一環の中で言うこと、そういった場面も、賛成か反対かの投票いずれかを強要するということだけには必ずしも限られないのではないかなという気がいたしておりますので、いずれにしてもそういったあいまいさの部分が残るわけでございます。

 したがって、そこからいわゆる教育者も含めてかなりの萎縮効果というものがやはり働いてしまうのではないか。そうなってくると、この国民投票運動そのものが全体的に小さくなりかねないというところもありますので、国民全体の運動の中で、将来に向かっての国家の基本的な原理原則を国民全員で決めていく、制定権者である国民が決めていくというところからすれば、こういった部分に関して規制をかけていくというのは現時点では無理があるのではないかなという気が私はいたしております。

糸川委員 ありがとうございます。

 投票年齢につきまして、先ほども阿部議員から質問もあったわけで、先日、私も投票年齢につきまして質問をさせていただいたわけでございます。民主党案は十八歳以上というふうに引き下げておりまして、先日の委員会では与党の保岡先生がこれに理解を若干示されたのかなというふうに認識をしておるわけでございます。

 引き下げられた場合には、今まで以上に高校や大学において国民投票運動の仕組みにつきましてしっかりと教育をしていくことが重要になってくるのではないかなというふうに思うわけでございますが、国民投票運動について、どのように学生に教え、そして伝え、どこまで教えていくのかということについて、またこれをどのように学校現場で周知させていくのかということを双方の提出者にお聞きしたいというふうに思います。

保岡議員 国民投票の投票年齢を十八歳まで引き下げる方向は、先ほど来申し上げているように、大きな立場から考えて正しい方向だろうとは思います。しかし、我が党の中でもこの問題についてはまだ意見が分かれておりますので、国の制度の根幹にかかわる問題であるということは先ほど申し上げたとおりでありますので、よくよく検討して答えを得たいと思っております。

 そういったことを前提に、仮に十八歳に引き下げるにしても、二十での投票にしても、中学、高校、そういう教育の中において、憲法の意味とか、あり方とか、あるいはそれを変える最終決定権は国民にあることとか、その投票の手続がこのような形で行われるというようなことで、国民が投票することは国政に重大な影響を与えることになるので、この手続についてはよく勉強して、何かあるときには関心を持って自分なりの判断をきちっとできるように、そういうことの前提で勉強すべきことを、かなり従来以上にこれからは心がけていく必要があるのではないだろうかと思います。

小川(淳)議員 一般論として、若い世代の当事者感覚といいますか、そういったことを啓発していく教育というのは本当に必要だと思います。

 今、もう保岡先生がおっしゃったとおりでございまして、重ねて申し上げることはないんですが、私どもは、現実に十八歳以上という具体的な提案をしているわけでございますから、その分、身につまされた感覚を持って、現場の学校教育、憲法の教育はもちろんですが、国民投票制度の仕組みや意義についても教育を進めていくということだと思います。

糸川委員 もうほとんど時間がございません。

 最後に、どうしてもこれは聞いておきたいと思うんですが、インターネットを利用した投票運動について質問させていただきます。

 今、インターネットを利用した投票運動というのは公選法において規制されておるわけでございますが、与党案、民主党案の双方の国民投票法案においては何ら規制をされておりません。最近では個人がブログ等を使って情報を提供することも非常に多くなっておりまして、影響力の大きい個人がブログで虚偽の情報を流された場合とか、そういう場合に削除請求もできないということは非常に不当ではないのかなというふうに考えるわけでございます。他方、国外からの発信もあるということもございますので、ネットの規制は実際には困難を伴うのではないかなというふうな気もいたします。

 そこで、インターネットの規制についての考え方を最後に双方から聞きたいというふうに思います。

加藤(勝)議員 与党案におきましては、文書に関しても、あるいは放送に関しても、投票期日前七日の放送制限というのがありますけれども、含めて国民投票運動に対するいわば手段について基本的に規制はしないという形をとっておりまして、御質問のインターネットについても規制は設けられておりません。

 そもそも、今お話がありましたように、外国からも含めて、実際に規制をするということが非常に難しいという問題。それから他方で、仮にそういうような不適切なものがあったとしても、今度は逆に、いわば反論していくという手段がインターネット上でも用意をされている、こういうことで是正をしていくということが期待できるのではないか。

 そして、やはりこうしたインターネットも含めて国民投票運動そのものが適切かどうかということを判断し、また規制をするということは、国民投票運動そのものの効果といいますか、要するに伸び伸びと国民投票運動をしていただける、それに対して逆に萎縮効果を与えてしまうのではないか、こういう観点から、インターネットについても規制を設けないということにしたところであります。

園田(康)議員 私ども民主党も、この点については同じく規制を設けておりません。一般の公職選挙法についても、私ども民主党は、インターネットの活用による選挙の解禁ということを求めていくというところで現実に今動き出そうとしておるところでございます。

 その延長線上で、この国民投票法につきましても、当然のごとく、インターネットが自由な意見交換の場になったり、あるいは情報発信の場になったり、そういったところにはなり得るであろうということで、国民投票運動の一環としてこれが幅広く解禁されていくべきであろうという観点に立っております。

 先ほど、恐らくこういう規制がないからこそ、何か誹謗中傷するようなことが書かれた、あるいは虚偽の事項があったときには、それを改善するあるいは禁止をさせるような規制を逆に設けなければいけないのではないかというふうに私は受け取ったわけであります。しかしながら、だからといって、そこにまた新たな規制を設けるということになれば、これは人を、あるいはその人を対象としたものではないというところからすれば、恐らく、念頭に置かれているような誹謗中傷するようなものというのは御心配にはならなくてもいいのかなと。

 そのかわり、同じような、インターネットを使っての逆の情報発信というものは自由にできるわけでありますので、そういう誹謗中傷のようなものがあれば、また逆のところからのそういう情報発信をインターネット上で行っていくということも、あわせて議論がそこの場でもさらに自由にできるという環境はつくっていかなければいけないなというふうに思っています。

糸川委員 ありがとうございました。

 今後も議論を深めていきたいというふうに思います。

 終わります。

中山委員長 次回は、公報をもってお知らせすることとし、本日は、これにて散会いたします。

    午後四時五十一分散会


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